《大.落》♥ やらかしちまって!〜眠り姫★
「なあ、あんたは歩が好きなの?」
面と向かって急に聞かれた。
目の前にいる秀馬は、コーヒーカップを手にして一子をみている。
視線が合うと、それだけでドキドキしてしまう。
ーーーうまくケーキが飲み込めない。
思わず、ゴクリと音を立てて飲み込む。
「好き……ですよ」
ーーー歩さんのことは、好きだ。それがどんな風に好きかとか、どのくらい好きかまでは聞かれてない。だから、あえて言わない。
「……そうか。なら、付き合ってる訳?」
「どうして、そんなに聞くんですか?」
「さあ、聞きたいからだろうと……思う」自分のことなのに他人事みたいな返事だった。
「あんたのことは、不思議と気になる。今日も偶然にあんたを見つけたのがまずかった。歩との仲は聞かないつもりだったのにな」
秀馬は自嘲するように笑った。
気になると言われて、一子の想いは複雑だった。歩との仲を気にされ、このままでいたら自分の良い方に勘違いしそうな気がしていた。
それから、黙々と色々なケーキを口に運んだ。どれも似たような味にしか感じなかった。
ーーーなんか大事なこと忘れてる気がする。
フォークをテーブルに置き急に立ち上がる一子。
「 やだ! 忘れてた! 歩さんで思い出しました。今日は歩さんが私の家に迎えに来てくれるんでした! どうしよう。帰らないと」
バッグを手にして、テーブルから離れようとする一子の手首をまた秀馬が掴んだ。
驚いて秀馬を見つめる。まっすぐに見つめ返されて身動きが取れない。
「真田さん?!」
形の良い唇が静かに開いた。
「行くなよ」
秀馬の言葉の意味が、一瞬わからなかった。
「えっと?」
「行くな。俺と行けばいい」
強めの口調で言われて、言葉を失う一子。言葉の意味を確かめるように一子は、自分を見つめてくる秀馬を見た。
「………
何言ってるんですか。だって……」
ただ、体全部が心臓になったようだと思った。ドキドキが耳を支配して、何も聞こえなくしてしまう。
小刻みに震える一子の指先を秀馬が絡め取る。
立ち上がった一子を座ったままで見上げる秀馬の瞳は、ブロンズ色の鈍い光りを放つように見えた。