むとうさん
失恋してやり切れなくて、なんてことを初めて来た素敵なこの空間で言うのはあまりにも安っぽく思えた。それに今は話すより何も考えずに美味しいお酒を関係ない誰かと飲みたかった。

「山の側に住んでて、仕事帰りに少し美味しいお酒飲みたくなっちゃって。」

「お疲れさまです。それは私もがんばらなくちゃなぁ。」

バーテンダーさんは屈託無い笑顔で話す。落ち着いてる癒し系のおじさんって中々貴重かも。

「むとうさんもそろそろ違うのお造りしましょうか?」

バーテンダーさんは、さっきから何もせず静かに奥に座っていた男性の方へ寄って声をかけた。

「同じのお願いね。」
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