むとうさん
「むとうさんお酒のんじゃうんですか?」
「あ?飲むけど。車なら帰り運転するやつ呼ぶし」
俺は法律違反はしねーよ。だからあんたも酒飲んでいいよ。

法律違反はしないって。いまいち彼らの世界が理解できない。そんな下手はしないってことなのか。

「柏木さんどうしたんでしょうか。」
「風邪でもひいたんじゃねぇの。」

ビールを飲みながらローストビーフをふたりでつまんだ。

向かい合ったのって初めてだよなぁ。
尖った鼻筋、少し彫りの深い目に少しつりあがった眉毛。そして薄い唇。何気整った顔してんだけど、男性的で冷たい感じの顔なんだよな。

「仕事、今何の車作ってるの。」
「それは言えません、企業秘密です。」
「あそ。」
「むとうさんは、前言ってた自営業って何してるんですか。」
「何って色々やってるからな。まぁ今やってるのは解体がメインよ。俺はあんまサービス業とかってタイプじゃねぇから。」

むとうさんは仕事の話をたくさんしてくれた。なんかもっと早く聞けばよかったな。少しグレーなゾーンも話してくれるけど、薬とか暴力とかそういった話は出てこなかった。

自営業っていうのは色々なことを考えなくてはいけなくて、会社勤めという考えしかなかった私には興味深く、大変に思えた。

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