むとうさん
車から降ろされるとランクルは帰って行ってしまった。

寒っ。夜11時すぎの海はやはり寒い。でも…昼間でもまずこない埠頭は、倉庫や作業船とか色っぽいものはないんだけど、夜景が一望できる。それに、夜の海は静かで落ち着く。

「少しは酔い冷めたかよ。」

ん、とミネラルウォーターを渡してきた。

ブロックに二人で腰掛けて何とも言わず海を眺めた。

寒い。やっぱり寒い。肩をさすっていると、ふわっと黒いブルゾンがかけられた。

「むとうさん、寒くないんですか。」
「あんた寒そうじゃん。」

白い七分袖のカットソーは筋肉でややぴちっとしていた。むとうさんってやっぱり腕太いんだナァなんて感心していたけど、少し開いている襟ぐりの端から黒っぽい赤い模様がはみ出していた。

ブルゾンを羽織っていた時は隠れていたけど。やはりむとうさんは刺青をしていた。それも和彫りの。

背中からお尻までがっつり入っているのだろうか。
くっきりと筋肉でしまった身体に、龍なんかが描かれているところを想像したら、思わず綺麗だろうなと思ってしまった。
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