最も危険な  ルームシェア
私はそのキスで一瞬とろけそうになった。

と、カチャッと音がした。

真司さんが唇を離した。

「ゆずる、お帰り。」

滝野さんが帰ってきた。

リビングでキスしていた私たちを見たはずだ。

私はソファから立ち上がって滝野さんに駆け寄った。

「滝野さん。」

何を言っていいかとっさに思いつかず戸惑った。

滝野さんは私の目を見て言った。

「仁科。」

「はい。」

「もう遅いのか。」

彼は私のあごにそっと手を触れて

私の下唇を親指ですぅっと撫でた。

たったそれだけで私は全身が固まった。

ゾクッとして

腰が抜けそうで振らつきそうになるのを

両足を踏ん張ってこらえた。

そんな私には構わず滝野さんは

私の横をすり抜けて自分の部屋へ入ってしまった。

真司さんはソファで炭酸水のビンを飲み干していた。

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