時空(とき)の彼方で
輝いている彼
 翌朝目覚めた彼女は、パンを買おうとロビーに下りた。
 そして、前方から歩いて来た店長を見つけて駆け寄る。

「店長、おはようございます」
「おはよう。夕べはゆっくり寝れた?」
「はい」
「それは良かった。はい、これ」
「何ですか?」

 差し出された袋を覗くと、そこにスマートフォンが入っていた。

「えっ?」

「携帯使えないだろ? これ俺の名義で契約して来たから、支払いも気にせずに使っていいよ。俺の番号は入れてるから、何かあったらいつでも掛けて来い」
「何から何まですみません。元の世界に帰ったらお返ししますって言いたいところですけど、小川さんが言ってたように、向こうの店長は、違う人みたいなんです」
「年も10歳若いしな。支払いの事は気にしないでくれ。それより、お前がいた世界の俺から告白されたらOKしてくれよな。向こうの俺達も上手くいって欲しいし」
「こちらのわたし達は、幸せなんですね?」
「ああ。ところで、小川さんって役者なんだろ? テレビとかにも出てるのかな?」
「出てるみたいです。カッコいいから、きっとこれから人気が出て来るんじゃないでしょうか?」
「お前まさか、あの人に惚れたりしてないよな?」
「妬いてるんですか? 大丈夫ですよ」
「そうだよな。いずれお前は俺の彼女になるんだから」
「だけど、わたしが知ってる店長との関係は、全然そんな感じじゃなかったです」

 向こうの世界では、店長から怒られてばかりの販売員だった。
 毎朝、今日こそは怒られないように頑張ろうと気合を入れて出勤するのだが、帰りはいつも凹んで帰る羽目になる。
 その繰り返しだった。
 思い切って辞めようかと求人雑誌に目を通し始めていた矢先、この世界に来てしまった。
 それが良かったのか悪かったのか。
 とりあえず、店長に怒られなくなっただけでも良かったのかもしれない。
 おまけに、こっちの店長はとても優しい。
 どこで転機が来たのだろう。
 今の彼女にはそれが不思議でならなかった。

「ま、俺が鍛えたお陰で今のお前は店長になれたんだからな」
「そうですね。向こうに戻っても、ありがたく店長から怒られます」
「ったく・・・。それじゃ、何かあったらいつでも連絡して」
「はい」
「じゃ、仕事に行くよ」
「一緒に行きましょう。わたしも丁度コンビニに行く所だったんです」

 2人は並んでホテルを出た。
 元の世界での店長は、とにかく怖くて仕方の無い人だった。
 顔は同じなのに、性格は別人だ。
 どちらの彼がいいかというと、こちらに決まっている。
 人ってこうも変わるのかと、不思議に思う彼女だった。



 
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