記憶と。
 僕達は3年になっていた。
中学校最後の年、僕達は同じクラスになることが出来た。
もちろん健二も一緒だった。結局健二は3年間同じクラスだった。
席はくじでの抽選だった。健二とは離れたけど、綾子とは同じ班だった。
そして、3年といえば受験を意識しないわけにはいかない時期だった。
僕は特に行きたい高校とかは無かった。むしろほとんど調べてさえなかった。
僕より成績がよかった綾子は、それなりにいい高校を選んでいた。
高校を調べる気さえなかった僕は、とりあえず綾子と同じ高校でいいかな、程度に考えていた。
しかし綾子は、僕にちゃんと考えることを勧めた。
それでも僕は、漠然とした希望進路はあったものの、高校はとりあえず普通科でいいか程度だった。
それは、あの7月になっても、そのままだった。
「ユキ、本当にそんなに適当に決めちゃっていいの?」
その言葉は僕の胸に突き刺さった。
僕は適当に、選んだつもりはなかった。
ただ綾子と一緒にいたい。それだけだった。
「俺、迷惑?」
「ううん。それは嬉しいんだけど。ユキ、やりたい事とかないの?」
「うーん。」
僕はなんとなくでしかない進路より、綾子と一緒にいたいほうが強かった。
それは女々しい行為だったのかもしれない。
それでも、たとえ周りからそういわれても、僕はそう思っていた。
「お前大学は考えてんのか?」
前の机に健二が座り、割り込んできた。
「うーん。一応。行こうかなとは思っとるけどさ。」
「お前、普通に大学受験して受かる気なのか?」
「無理かね?」
「無理だろ。」
キッパリと言われた。
こういう健二との漫才みたいな掛け合いをすると、綾子はかならず笑ってくれた。
しかし、この日の綾子は、難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
「ユキ、本当に高校はちゃんと考えたほうがいいと思うよ。」
ひさしぶりに真剣な顔の綾子を見た。
高校、それは行く意味があるのかどうなのかさえ解らなかった。
もちろん現実をみれば中卒ではなにも出来なくなるのもたしかだった。
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