たった一人の甘々王子さま


エリーたちとドア一枚隔たれたこの部屋では、優樹とコージを手に入れようとしている.........であろう社長令嬢と対峙している。


この社長令嬢、高いヒールのパンプスを履いて優樹を見下ろそうと考えていたのだろう。
だが、もとが小柄な女性だったのか、優樹の背が高かったからなのか見下ろすことが出来ず、気持ち見上げる形となる。
多分、5㎝ほど優樹の方が高い。


睨み付ける社長令嬢に、負けじと視線を反らさない優樹。
こちらも、一応社長令嬢。


優樹も相手の出方を見ているのかまだ何も言わない。
優樹のその態度が勘にさわるのかだんだんイライラした顔になっていく令嬢。
ハチミツのような綺麗なブラウン色の長い巻き髪を、優樹に見せつけるかのように掻き上げた。


膝丈のワンピースから見える綺麗な脚を自慢げに出して女性らしさをアピールする。
優樹はそんな動作など気になどしていない。


ふと、こめかみに痛みが走った。
いつかの辛い記憶が頭のどこかに戻ってきそうな感じなのだ。


暫しの沈黙を破ったのは我慢しきれなかった社長令嬢だ。


「フン!貴女、何も言えないの?
.........ハァ、これだから日本人って嫌なのよ!
私のこと知ってるんでしょ?意見がないのなら、彼の事自由にしてあげて?貴女の事があるからコージは私の所に来れないのよ。いい加減、身の退き方くらいわきまえては?」


『こんなところに匿われて.....どこのお嬢様よ?本当に女なの?お洒落も何もしてないし。』
なんて追い討ちをかけるように優樹の事を言葉で攻めていく。
確かに、今日の優樹の格好は普段通り。
しかし、昔に比べるとレディースの服装だ。


ハーフパンツだが、足元にはブーツを履いて少しは女の子らしく。
レースやヒラヒラのついたシャツなんて恥ずかしくて着れないけれど、ストライプのカッターシャツや紺色のジャケットはクリスマスデート用に購入した服だった。
髪だって肩まで伸びてきたのだから、きちんと内巻きにとブローも頑張った。


メイクはまだまだ慣れないのだが、エリーに教えてもらってナチュラルメイクに仕上げた。


優樹なりの頑張りを全て否定されて悔しくて下唇を噛んだ。


ドカリと、ソファーに身を埋めて一息ついたのは優樹ではなく名も知らぬ社長令嬢。
優樹は驚いて何も言えずじまい。
ただ、その令嬢の行動に目をやるだけで.......


「本当に、何も言わないつもり?貴女、口が聞けない訳じゃないでしょう?質問でも何でも受け付けるわよ?」


苛立ちが隠せない令嬢に優樹が聞いたはじめの言葉は、


「えっと、貴女の名前は?」


なんと、まぁ.......


『聞きたいことってそれ?』
と、半ば呆れ顔の令嬢。


「.......ローラ」


バカじゃないの?なんて聞こえてきそうだ。


「うん。わかった。ローラさん。ローラさん。.......うん、ローラさんね。」


優樹が何を考えているのか、何やら考えがあるのか分からず令嬢のローラはイライラが爆発。
ソファーから立ち上がって優樹を睨み付けた。


「貴女ね!人の名前を連呼して何が言いたいのよ!ハッキリしてよね!もう、わかったわ!貴女に彼は似合わない。私が貰うわ。コージにはパパの会社に来てもらって、私の伴侶となって会社を盛り上げてもらうから!」


『貴女に会いに来たのは間違いだったようね。』
と、捨て台詞を言い、優樹の事を突き飛ばした。


「うわっ.......」


持っていたミネラルウォーターを溢さないようにと気を付けたせいで優樹はバランスを崩して倒れてしまった。
その弾みでローラの服に水がかかってしまい濡れてしまった。


「ち、ちょっと!何してくれるのよ!いい加減にしてよね!男をとられたからってこんなことしないでよっ!」


フライドの高いローラは、座り込んだ優樹の頬を叩こうと右腕をあげ、振り下ろした。


『パシッ!』


ローラの右腕を叩かれる前に掴んだ優樹は、そのまま立ち上がって令嬢ローラを睨み付けた。


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