たった一人の甘々王子さま
病院に到着して玄関先で待っていてくれたお義母さんと挨拶もそこそこで院内へ。
歩きながらお義母さんから鞄を受けとる。
優樹は自分で歩くのがかなり辛くなってきたみたいだ。痛みが......たぶん陣痛だと思うが、その痛みが引いたときを見計らって手摺に捕まりながらゆっくり歩く。
『痛いー!』と叫びながらだが。
「相楽さんこっちこれる?」
助産婦さんが声をかけてくれた。
手を貸してくれるかと思ったとき、
「はぅっ!今、いまきた!なんか、来た!痛い!!」
「あぁ、いきみが来たのね。なら、分娩室にいきましょう。ご主人も一緒でいいから」
「はい、ありがとうございます。優樹、もう少しだから.......」
『頑張って歩こうか』
そう声をかけようとしたとき、優樹に激しい痛みが来たようだ。
今までで一番の痛がりようで、ここまで叫ぶ優樹は初めて見た。
「いっ.......たい!たい!たい!たい!たい!たい!たいっ!」
涙目で叫ぶが、俺も腰を擦るくらいしかできなかった。
何とか分娩室に移動して、台に乗る。
気がつけば、スタッフの方が何人か増えて優樹の周りで出産に向けての準備がされていく。
優樹の頭の方に立ち、痛みと戦う優樹の頬を撫でる。
すると、すかさず優樹の右手が伸びてきて手首を捕まれた。
「も.......もっいっこ.......手を.......」
痛みに耐えながら左手を出してきたので、右手のように優樹の左手へ自分の左手を出すとあっという間に捕まれた。
優樹はそのままいきみだし、助産師さんが赤ちゃんの具合を確認した。
すぐに先生がやって来て、どれくらい時間が過ぎただろうか.......
泣き声が聞こえて、一人目が生まれた。
「お母さんは体育の先生でしたよね。運動をしていたから体力 がありますね。さすがです。さぁ、もう一人、お腹の中で頑張ってるよ。もうひと踏ん張り!」
優樹は、俺の手首を掴んだままいきんでいる。ここまで強く握られるとは思わなかった。ただでさえ、優樹の握力は強いのに..........俺の手首は優樹に負けないくらい悲鳴をあげそうだ。
手首の痛みに耐えながら、優樹を励まし、次のその時を迎える。
大きな泣き声が聞こえて、やっと優樹の顔に安堵感が出た。
優樹に捕まれたままだが、上から覗き込むように優樹を見つめて頬を包む。
「優樹、お疲れさま。頑張ったね。ありがとう。元気な男の子が生まれたよ」
「ん.......よかった.........」
俺は嬉し涙を堪えて、グッタリ疲れ果てた優樹のおでこに感謝のキスをした。