ビターチョコ
担任から発表があり、週明けから、華恋が保健室登校になっているとのことだった。
授業が始まるまでの時間に、ひっそりと私たち仲間内(拓実くんにも協力してもらっている)と、華恋のいる演劇部の後輩や仲間たちにも寄せ書きを書いてもらったミニ色紙。
そして、華恋がいない間のノートのコピーを皆で渡しに行った。
応対してくれたのは伊藤先生だ。
まだ私たちの顔を直接見て話してくれることはなさそうというのが感じ取れる。
深月、正確には深月の母の見立てによると、毒親の影響を少なからず受けてしまっている影響が強いらしい。
自己肯定感が限りなく低くなっているようだ。
「実母に無理やりとはいえ自殺未遂させられ、失敗したのは喜ぶべきこと。
自ら命を絶つことをもっと強く拒否しなかったのも事実。
こんな私を受け入れてくれる人なんていない」
と泣きながら語っていたという。
そんな状態ではもはや正論はもちろん、どんなありがたいアドバイスも、歪んで解釈されてしまう危険があるのだ。
そうはいっても、何とかしたいと思うのは、ここにいる誰もが同じだ。
とりわけ、元の華恋に戻ってほしいと強く思っているのは美冬だろう。
なにせ中学生の頃からの親友だ。
自分が辛いときに側で支えてくれたのが華恋なのだから、今度は自分がお返しする番だ、のような強い使命感を持っているに違いない。
私は理系クラスなのでわからない。
文系クラスの小野寺くんや麗眞くんに授業中の美冬の様子を聞いた。
先生に指名されたら答えられるものの、それ以外は心ここにあらずといった感じらしい。
そのため、最近はもっぱら小野寺くんか麗眞くん。
たまに琥珀ちゃんまでもが華恋に渡すためにノートをまとめ直しているようだ。
そんなある日、放送部の部員が私たちの軽音楽部サークルに顔を出してきた。
美冬が珍しく、部活を休んでいるのだという。
「美冬、どこにもいないのよ」
「美冬先輩が何も言わずに休むなんて、何かあったんすよきっと。
いつもなら今日、生放送前日だから部室に籠もって準備してるんですけど」
相当いろいろなところを探して回ったらしい。
後輩と美冬の同級生らしい髪を胸の辺りまで伸ばした少しぽっちゃり気味の女の子と、制服を着崩していない、髪を無造作に跳ねさせた男の子が息を切らしている。
「なんとなくだけど、心当たりある場所、分かる気がする。
あ、深月は来るなよ」
秋山くんはそう言って、誰かに電話をかけながら部室を出ていった。
きっとあの場所だ。
秋山くんがわざわざ深月に来るなと釘をさすのだから。
深月が入りたくても入れない場所は、あの場所しかない。
それから、練習をしようにも気分が晴れず、かといって雑談をする気にもなれず、重苦しい雰囲気が部室内を包んでいた。
「もうすぐ帰れって放送流れる時間なのに、どこ行ったんだろ」
椎菜が不安そうに呟いたとき、部室のドアが開いて、小野寺くんに頭を撫でられながら美冬が登場した。
その後ろに秋山くんがいた。
美冬の目は赤く腫れていて、かなりの時間泣いていたのは誰が見ても明らかだった。
「美冬も強くなったな。
泣くだけで済んだ。
でも、ちょっと歯車が狂ってたら、俺が深月ちゃんと同じ思いをするところだった。
俺も、屋上をトラウマにはしたくないしね」
深月の顔が一瞬青くなった。
その光景を思い出したのだろう。
秋山くんに肩を数回優しく叩かれ、頭も軽く撫でられたことで落ち着いたようで、元の顔色に戻った。
「美冬さ、今日の授業のノートのコピー渡しに行ったけど拒否されて、勢いに駆られたんだろう。
華恋ちゃんにいろいろ思ってることをストレートにぶちまけたらしい。
美冬自身、華恋ちゃんの感情が不安定なこの時期に、やっちゃいけないことをやった、その自覚はあるみたい。
自己嫌悪に苛まれて屋上でずーっと泣いてた。
苦労したんだよ、連れてくるの。
私も華恋と同じ思いすればいいんだよねって言って、屋上の柵乗り越えようとしたときは、さすがに焦ったけど」
「そうそう、俺が昔、深月にしたように腕の中で泣かせてやる、だけじゃなくてもっと羨ましいくらい、色んなことしてたけどな。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらいの」
小野寺くんがそう言うのだから、相当苦労したんだろう。
小野寺くんが鞄を2つ持っているのは、1つは美冬の分のようだ。
「ほら、お前らも帰り支度しろ?
そろそろ部室の鍵返さなきゃなんじゃねーの?
俺は、ちょっくらこの泣き虫姫を引っ張って、放送部の部室行く。
心配かけた部員に、美冬は大丈夫だからお前らが心配する必要ないって言ってくるわ」
そう言って、深月に二言三言話しかけたあと、
美冬を引きずるようにして、部室を出ていった小野寺くん。
各々が帰り支度をする中、深月が秋山くんに何かを話しかけている。
話しかけられた側の秋山くんは、ちょっと困ったような表情をしていた。
「そういえば、小野寺くん、さっき深月に何て言ってたの?」
「ああ、あれね。
落ち着いたら美冬本人から私の家電に電話かけさせる。
その時家にいるようなら、私の母に電話代わって、話聞いてやってくれって。
今回は小野寺くんのおかげでしないで済んだけど、希死概念が一瞬でも言葉に出たから、精神衛生上良い状態ではないの。
だから、その判断は賢明ね。
私はミッチーと一緒に先に帰るね!
ごめん、皆も気をつけて!」
深月はそう言って、鞄を掴むと、慌ただしく部室を出ていった。
「理名ちゃん、先に帰ってろよ。
気をつけて。
俺は椎菜と一緒に鍵返してから帰るわ。
行こうぜ?椎菜」
スマホをやけに気にしながら、麗眞くんがそう言うので、お言葉に甘えることにした。
「ありがと。じゃ、また明日ね!
あ、イチャラブもほどほどにね?」
それだけ2人に言って、私は帰宅の途についた。
授業が始まるまでの時間に、ひっそりと私たち仲間内(拓実くんにも協力してもらっている)と、華恋のいる演劇部の後輩や仲間たちにも寄せ書きを書いてもらったミニ色紙。
そして、華恋がいない間のノートのコピーを皆で渡しに行った。
応対してくれたのは伊藤先生だ。
まだ私たちの顔を直接見て話してくれることはなさそうというのが感じ取れる。
深月、正確には深月の母の見立てによると、毒親の影響を少なからず受けてしまっている影響が強いらしい。
自己肯定感が限りなく低くなっているようだ。
「実母に無理やりとはいえ自殺未遂させられ、失敗したのは喜ぶべきこと。
自ら命を絶つことをもっと強く拒否しなかったのも事実。
こんな私を受け入れてくれる人なんていない」
と泣きながら語っていたという。
そんな状態ではもはや正論はもちろん、どんなありがたいアドバイスも、歪んで解釈されてしまう危険があるのだ。
そうはいっても、何とかしたいと思うのは、ここにいる誰もが同じだ。
とりわけ、元の華恋に戻ってほしいと強く思っているのは美冬だろう。
なにせ中学生の頃からの親友だ。
自分が辛いときに側で支えてくれたのが華恋なのだから、今度は自分がお返しする番だ、のような強い使命感を持っているに違いない。
私は理系クラスなのでわからない。
文系クラスの小野寺くんや麗眞くんに授業中の美冬の様子を聞いた。
先生に指名されたら答えられるものの、それ以外は心ここにあらずといった感じらしい。
そのため、最近はもっぱら小野寺くんか麗眞くん。
たまに琥珀ちゃんまでもが華恋に渡すためにノートをまとめ直しているようだ。
そんなある日、放送部の部員が私たちの軽音楽部サークルに顔を出してきた。
美冬が珍しく、部活を休んでいるのだという。
「美冬、どこにもいないのよ」
「美冬先輩が何も言わずに休むなんて、何かあったんすよきっと。
いつもなら今日、生放送前日だから部室に籠もって準備してるんですけど」
相当いろいろなところを探して回ったらしい。
後輩と美冬の同級生らしい髪を胸の辺りまで伸ばした少しぽっちゃり気味の女の子と、制服を着崩していない、髪を無造作に跳ねさせた男の子が息を切らしている。
「なんとなくだけど、心当たりある場所、分かる気がする。
あ、深月は来るなよ」
秋山くんはそう言って、誰かに電話をかけながら部室を出ていった。
きっとあの場所だ。
秋山くんがわざわざ深月に来るなと釘をさすのだから。
深月が入りたくても入れない場所は、あの場所しかない。
それから、練習をしようにも気分が晴れず、かといって雑談をする気にもなれず、重苦しい雰囲気が部室内を包んでいた。
「もうすぐ帰れって放送流れる時間なのに、どこ行ったんだろ」
椎菜が不安そうに呟いたとき、部室のドアが開いて、小野寺くんに頭を撫でられながら美冬が登場した。
その後ろに秋山くんがいた。
美冬の目は赤く腫れていて、かなりの時間泣いていたのは誰が見ても明らかだった。
「美冬も強くなったな。
泣くだけで済んだ。
でも、ちょっと歯車が狂ってたら、俺が深月ちゃんと同じ思いをするところだった。
俺も、屋上をトラウマにはしたくないしね」
深月の顔が一瞬青くなった。
その光景を思い出したのだろう。
秋山くんに肩を数回優しく叩かれ、頭も軽く撫でられたことで落ち着いたようで、元の顔色に戻った。
「美冬さ、今日の授業のノートのコピー渡しに行ったけど拒否されて、勢いに駆られたんだろう。
華恋ちゃんにいろいろ思ってることをストレートにぶちまけたらしい。
美冬自身、華恋ちゃんの感情が不安定なこの時期に、やっちゃいけないことをやった、その自覚はあるみたい。
自己嫌悪に苛まれて屋上でずーっと泣いてた。
苦労したんだよ、連れてくるの。
私も華恋と同じ思いすればいいんだよねって言って、屋上の柵乗り越えようとしたときは、さすがに焦ったけど」
「そうそう、俺が昔、深月にしたように腕の中で泣かせてやる、だけじゃなくてもっと羨ましいくらい、色んなことしてたけどな。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらいの」
小野寺くんがそう言うのだから、相当苦労したんだろう。
小野寺くんが鞄を2つ持っているのは、1つは美冬の分のようだ。
「ほら、お前らも帰り支度しろ?
そろそろ部室の鍵返さなきゃなんじゃねーの?
俺は、ちょっくらこの泣き虫姫を引っ張って、放送部の部室行く。
心配かけた部員に、美冬は大丈夫だからお前らが心配する必要ないって言ってくるわ」
そう言って、深月に二言三言話しかけたあと、
美冬を引きずるようにして、部室を出ていった小野寺くん。
各々が帰り支度をする中、深月が秋山くんに何かを話しかけている。
話しかけられた側の秋山くんは、ちょっと困ったような表情をしていた。
「そういえば、小野寺くん、さっき深月に何て言ってたの?」
「ああ、あれね。
落ち着いたら美冬本人から私の家電に電話かけさせる。
その時家にいるようなら、私の母に電話代わって、話聞いてやってくれって。
今回は小野寺くんのおかげでしないで済んだけど、希死概念が一瞬でも言葉に出たから、精神衛生上良い状態ではないの。
だから、その判断は賢明ね。
私はミッチーと一緒に先に帰るね!
ごめん、皆も気をつけて!」
深月はそう言って、鞄を掴むと、慌ただしく部室を出ていった。
「理名ちゃん、先に帰ってろよ。
気をつけて。
俺は椎菜と一緒に鍵返してから帰るわ。
行こうぜ?椎菜」
スマホをやけに気にしながら、麗眞くんがそう言うので、お言葉に甘えることにした。
「ありがと。じゃ、また明日ね!
あ、イチャラブもほどほどにね?」
それだけ2人に言って、私は帰宅の途についた。