ビターチョコ
「疲れたぁー!
もう、化学ってなんであんなよくわかんない式ばっかりなのー。
ホント苦手」
授業が終わり、愚痴を言う私の横で、美冬と深月ところで小野寺くんがバタバタとエレベーターに向かう。
きっと放送室だろう。
今日は美冬のラジオ番組の生放送なのだ。
昨日あんなことがあったから、準備もあまり出来ていないのではないだろうか。
不安もあったが、お昼休みの予鈴が鳴ると同時に放送は始まった。
『皆さんこんにちは!
お昼のグッドな日!パーソナリティーの関口 美冬です!
あと数週間で夏休みですね!
皆さん、何か予定は立てていますか?
今日も暑くなりそうですが、暑さに負けずグッドな日にしましょうね!
それでは、今日も30分間、私にお付き合いください!』
台詞はいつもアドリブなのだろうか。
昨日、本人がまともに準備すら出来なかった状態だとはとても思えない。
『今日は〇〇になりたい!というコーナーをお届けします!
進路に悩んでいる人もいるでしょうからね。
皆さんの将来の夢を、ひたすら肯定することで、皆さんのモチベーションを上げていこうというコーナーです。
それでは、リスナーからのお便りを紹介していきますね』
読まれるはずがない、と思ってこっそり投書しておいた自分のハガキが読まれてしまった。
穴があったら入りたい。
ペンネームは『医師になりたい系メガネ女子』なんていうものにしてしまったのだ。
リスナーからのハガキか手紙はいつもパーソナリティーである美冬本人が選ぶという。
今日は美冬自身が準備で手一杯だったはずなので、深月か小野寺くんが選んだのだろう。
リスナーの美冬ちゃんにひたすら肯定された。
「私、文系クラスなので理系クラスというだけで尊敬します!
他人の命を救うためにとにかくあらゆる手を尽くす、使命感に溢れた職業ですよね。
私もこんな医師の方に、診察するときはお願いしたいです!
将来、関口……もしかしたら小野寺かもしれないですが……
美冬、美しいに冬と書く私の字、覚えておいてほしいです!』
こんな調子で褒められて、一気に顔が赤くなった。
なんだかラジオ番組越しというだけで、顔も名前も知らない人に応援されている気分になる。
予想外に恥ずかしいし、椎菜や麗眞くん、秋山くんには意味ありげな視線を向けられている。
『次のお便りは、ペンネーム 華やか恋愛さんからいただきました。
私はウェディングプランナーになりたいと思っています。
そのために専門学校に行くか、大学に行くかは少し迷っています。
小さい頃、親戚や従姉妹の結婚式に参列したときに憧れたという漠然とした動機ではあるんです。
結婚式を挙げるカップルの希望を叶えるために努力を惜しまず、カップルさんとともに二人三脚で式を成功させるのだ。
そんな強い想いを感じ取りました。
私もそんなふうになるべく、友達の恋愛相談には乗ってあげるようにしています。
良いアドバイスが出来ているかは不明ですが、相談を聞くことで、相談した側の気持ちが少しでも楽になれば良いな、と考えています。
しかし、最近親友に心無いことを言ってしまって、少し反省しているところです。
友達にそんなことを言ってしまうようではカップルさんの希望に沿う提案もできませんよね。
そのあたりはまだまだ未熟だな、と思います。
その友達も良い人と結ばれたので、引き続き応援していけたらと思っています』
椎菜や麗眞、秋山くんも私も息を飲んだ。
ペンネームがそのまますぎる。
このお便りの送り主は保健室登校中の彼女からのものだ。
美冬は、ひたすらウェディングプランナーの仕事を肯定している。
本当は、親友からの思いがけないお便りで動揺
しているはずが、それが声色に表れていない。
まるでプロのアナウンサーみたいだ。
『いいと思います。
ウェディングプランナーのお仕事。
大学に入る前から少しでも夢に近づくべく友達の話を聞いてあげたり、素晴らしいことですね!
そんなふうに努力する姿勢はきっと、ウェディングプランナーになってから活きると思いますよ。
いいですねー。
私も結婚式を挙げるならこんな人にいろいろ相談しながら素敵な式にしたいですね。
女性なら誰もが1度は憧れる、主役になれる日ですからね、結婚式って。
きっと事細かに希望を聞いて、叶えられるように奔走してくれそうで、頼りがいがありそうです。
こういうタイプの人、きっと後輩からも先輩からも好かれますよね。
頑張ってください!
夢が叶うように応援しています!』
あと1通お便りを紹介して、なんだか元気が出るJ-POPが流れて、番組は終わった。
ちょうどご飯も食べ終わり、椎菜と麗眞くん、秋山くんとともに保健室に向かった。
そーっとドアを開けると、美冬と華恋が楽しそうに何やら話していた。
今日の朝伊藤先生から聞いた話だと、この2人の仲直りには時間がかかりそうだと見ていたのだが案外あっさりと冷戦期間は終わったようだった。
「あれ、皆おはよ。
じゃない、もうこんにちはか」
華恋はそう言って立ち上がると、私たちに向かって深々と頭を下げた。
「ご心配、ご迷惑おかけしました。
もう、多分大丈夫。
深月のお母さんにもね、もう来週から教室で授業受けても大丈夫だろう、って。
昨日美冬からいろいろ気持ちをストレートにぶつけられて、吹っ切れた部分もあったの。
私もいろいろ言いすぎちゃったから、伊藤先生に頼んで、授業の合間に放送部のクラスの子づてにお便り置いておいたんだけど。
まさか読まれるなんてね」
とにかく、美冬、ありがとう!
他にも椎菜にも麗眞くんにも小野寺くんにも、秋山くんにも深月にも理名にも。
たくさん迷惑かけたよね、それでも見捨てないでくれて、ありがとうね」
「ん?いいってことよ。
ま、俺は伊藤先生に華恋が番組に投稿するハガキ書いてたって聞いた時点で仲直りは早いと思ってたし。
言葉の力って侮れないんだよ。
自分で書きながら冷静になれるしな」
「そうそう。
それらしいの見つけたの、私なんだよ!
即座に美冬に上手く放送席のテーブルの角で宛名見えないように隠しながら渡してたの」
いつの間にか来ていた深月が言うと、秋山くんにグッジョブ、とでも言いたげに頭を撫でられていた。
「あれ?
深月と秋山くんって、さては?
ちゃんと付き合ってるわけ?
あれ、いつの間に?」
「深月も悪気があったわけじゃないんだよな。
華恋ちゃんがこんな状態のときに正式に付き合ってます、みたいな報告されるのも負担かなって考えてのことらしい」
「も、早く言ってよねそういうことは!
とにかくおめでと!」
華恋にバシバシ背中を叩かれている深月。
「華恋、もー、ちょっと手加減してって」
目の前の風景こそが、いつもの光景だ。
やっといつもの日常が戻ってきた。
もう、化学ってなんであんなよくわかんない式ばっかりなのー。
ホント苦手」
授業が終わり、愚痴を言う私の横で、美冬と深月ところで小野寺くんがバタバタとエレベーターに向かう。
きっと放送室だろう。
今日は美冬のラジオ番組の生放送なのだ。
昨日あんなことがあったから、準備もあまり出来ていないのではないだろうか。
不安もあったが、お昼休みの予鈴が鳴ると同時に放送は始まった。
『皆さんこんにちは!
お昼のグッドな日!パーソナリティーの関口 美冬です!
あと数週間で夏休みですね!
皆さん、何か予定は立てていますか?
今日も暑くなりそうですが、暑さに負けずグッドな日にしましょうね!
それでは、今日も30分間、私にお付き合いください!』
台詞はいつもアドリブなのだろうか。
昨日、本人がまともに準備すら出来なかった状態だとはとても思えない。
『今日は〇〇になりたい!というコーナーをお届けします!
進路に悩んでいる人もいるでしょうからね。
皆さんの将来の夢を、ひたすら肯定することで、皆さんのモチベーションを上げていこうというコーナーです。
それでは、リスナーからのお便りを紹介していきますね』
読まれるはずがない、と思ってこっそり投書しておいた自分のハガキが読まれてしまった。
穴があったら入りたい。
ペンネームは『医師になりたい系メガネ女子』なんていうものにしてしまったのだ。
リスナーからのハガキか手紙はいつもパーソナリティーである美冬本人が選ぶという。
今日は美冬自身が準備で手一杯だったはずなので、深月か小野寺くんが選んだのだろう。
リスナーの美冬ちゃんにひたすら肯定された。
「私、文系クラスなので理系クラスというだけで尊敬します!
他人の命を救うためにとにかくあらゆる手を尽くす、使命感に溢れた職業ですよね。
私もこんな医師の方に、診察するときはお願いしたいです!
将来、関口……もしかしたら小野寺かもしれないですが……
美冬、美しいに冬と書く私の字、覚えておいてほしいです!』
こんな調子で褒められて、一気に顔が赤くなった。
なんだかラジオ番組越しというだけで、顔も名前も知らない人に応援されている気分になる。
予想外に恥ずかしいし、椎菜や麗眞くん、秋山くんには意味ありげな視線を向けられている。
『次のお便りは、ペンネーム 華やか恋愛さんからいただきました。
私はウェディングプランナーになりたいと思っています。
そのために専門学校に行くか、大学に行くかは少し迷っています。
小さい頃、親戚や従姉妹の結婚式に参列したときに憧れたという漠然とした動機ではあるんです。
結婚式を挙げるカップルの希望を叶えるために努力を惜しまず、カップルさんとともに二人三脚で式を成功させるのだ。
そんな強い想いを感じ取りました。
私もそんなふうになるべく、友達の恋愛相談には乗ってあげるようにしています。
良いアドバイスが出来ているかは不明ですが、相談を聞くことで、相談した側の気持ちが少しでも楽になれば良いな、と考えています。
しかし、最近親友に心無いことを言ってしまって、少し反省しているところです。
友達にそんなことを言ってしまうようではカップルさんの希望に沿う提案もできませんよね。
そのあたりはまだまだ未熟だな、と思います。
その友達も良い人と結ばれたので、引き続き応援していけたらと思っています』
椎菜や麗眞、秋山くんも私も息を飲んだ。
ペンネームがそのまますぎる。
このお便りの送り主は保健室登校中の彼女からのものだ。
美冬は、ひたすらウェディングプランナーの仕事を肯定している。
本当は、親友からの思いがけないお便りで動揺
しているはずが、それが声色に表れていない。
まるでプロのアナウンサーみたいだ。
『いいと思います。
ウェディングプランナーのお仕事。
大学に入る前から少しでも夢に近づくべく友達の話を聞いてあげたり、素晴らしいことですね!
そんなふうに努力する姿勢はきっと、ウェディングプランナーになってから活きると思いますよ。
いいですねー。
私も結婚式を挙げるならこんな人にいろいろ相談しながら素敵な式にしたいですね。
女性なら誰もが1度は憧れる、主役になれる日ですからね、結婚式って。
きっと事細かに希望を聞いて、叶えられるように奔走してくれそうで、頼りがいがありそうです。
こういうタイプの人、きっと後輩からも先輩からも好かれますよね。
頑張ってください!
夢が叶うように応援しています!』
あと1通お便りを紹介して、なんだか元気が出るJ-POPが流れて、番組は終わった。
ちょうどご飯も食べ終わり、椎菜と麗眞くん、秋山くんとともに保健室に向かった。
そーっとドアを開けると、美冬と華恋が楽しそうに何やら話していた。
今日の朝伊藤先生から聞いた話だと、この2人の仲直りには時間がかかりそうだと見ていたのだが案外あっさりと冷戦期間は終わったようだった。
「あれ、皆おはよ。
じゃない、もうこんにちはか」
華恋はそう言って立ち上がると、私たちに向かって深々と頭を下げた。
「ご心配、ご迷惑おかけしました。
もう、多分大丈夫。
深月のお母さんにもね、もう来週から教室で授業受けても大丈夫だろう、って。
昨日美冬からいろいろ気持ちをストレートにぶつけられて、吹っ切れた部分もあったの。
私もいろいろ言いすぎちゃったから、伊藤先生に頼んで、授業の合間に放送部のクラスの子づてにお便り置いておいたんだけど。
まさか読まれるなんてね」
とにかく、美冬、ありがとう!
他にも椎菜にも麗眞くんにも小野寺くんにも、秋山くんにも深月にも理名にも。
たくさん迷惑かけたよね、それでも見捨てないでくれて、ありがとうね」
「ん?いいってことよ。
ま、俺は伊藤先生に華恋が番組に投稿するハガキ書いてたって聞いた時点で仲直りは早いと思ってたし。
言葉の力って侮れないんだよ。
自分で書きながら冷静になれるしな」
「そうそう。
それらしいの見つけたの、私なんだよ!
即座に美冬に上手く放送席のテーブルの角で宛名見えないように隠しながら渡してたの」
いつの間にか来ていた深月が言うと、秋山くんにグッジョブ、とでも言いたげに頭を撫でられていた。
「あれ?
深月と秋山くんって、さては?
ちゃんと付き合ってるわけ?
あれ、いつの間に?」
「深月も悪気があったわけじゃないんだよな。
華恋ちゃんがこんな状態のときに正式に付き合ってます、みたいな報告されるのも負担かなって考えてのことらしい」
「も、早く言ってよねそういうことは!
とにかくおめでと!」
華恋にバシバシ背中を叩かれている深月。
「華恋、もー、ちょっと手加減してって」
目の前の風景こそが、いつもの光景だ。
やっといつもの日常が戻ってきた。