ビターチョコ
その日の放課後。

華恋がいる保健室で、たまに生徒会の仕事を友人に頼まれて手伝っている深月がリークしてくれた。

どうやら今年の文化祭では、男子による女装コンテストと、女子による男装コンテストがそれぞれ行われるようである。

もちろん参加はエントリー制となっているらしい。

まず、文化祭開会の部でエントリーした人がそれぞれステージ上でお披露目される。

文化祭のパンフレットに付属する投票券で全校生徒と来場者による投票が行われる。

最終結果は後夜祭で発表されるそうだ。

グランプリには通販サイトで使えるギフト券。準グランプリには図書カードが3000円分与えられる。

なお、それぞれの賞にはおまけとして、食堂で使える定食のデザートサービス券1年分が付くという。

「深月、マジなの?
その話」

「生徒会が文化祭実行委員と話してるの、たまたま聞いちゃったんだよね。

盗み聞きするつもりなんて全然なかったの。

お手伝いで頼まれたダンボールを所定の場所に持っていって、その仕事終わった報告に行ったのよ。

お話中に入るのマズイかなって、タイミング窺ってたら聞こえちゃって」

「深月さ、いろいろ手伝いすぎだ。

軽音楽部に演劇部に、放送部に、書記とはいえ生徒会まで入り浸っている挙げ句、プライベートでも、おふくろさんの研究を手伝ってるんだろ?

深月お前、何足わらじ履いて、いつ休んでるわけ?
理名ちゃんほどじゃないけど、たまにクマ作って登校してきてるし。

そんなんじゃ、近いうちに身体壊すぞ。
もっと自分大事にしろよ。

お前がいつぶっ倒れるかが心配で仕方ない、俺の身にもなってくれよ、頼むから」

「はいはい。
ラブラブなお二人さん、ちょっといちゃつくのストップね。

男装コンテストなら、イメージない人のほうがギャップ狙いで面白いから、麗眞くんにするとして、女子よね、問題は」

華恋の言葉に、即座に麗眞くんからツッコミが入る。

「いやなんで俺なんだよ!

やめろ、姉貴に一生ネタにされる!

姉貴に笑い死ぬから変な冗談はやめろって言われる未来もしっかり見えるよ、ホント恥ずかしい」

「いやでも、いいと思うよ?
学園の公認カップルの片割れが女装コンテスト出場って、結構話題性あるんじゃない?」

「麗眞、どうするの?
出るって言うなら、ここにいる皆でちゃんと協力するよ?」

そこで言葉を切って、麗眞に耳元で何やら話す椎菜。

「仕方ないな。
エントリーすりゃいいんだろ?
その代わり、お前らの誰かも出ろよ?

このコンテスト」

「話聞いたらね、理名がうってつけかなって思ったの!

このメンツの中では割と中性的な顔立ちだし、普段から髪もショートで身長も高くて男の子っぽいし。
十分いい線狙えると思うの。

私たちは、男装するには超超ハイパーコルセットくらいないと、出来そうにないし」

そういう美冬だが、それは女子にしては出るところが出ていないという、遠回しな悪口だろうか。

「まぁ、言われてみれば確かにな。

理名ちゃん以外は超超ハイパーコルセットでも多分男装は無理だと思うな。
その大きさだとコルセットが先に悲鳴あげそうだ」

麗眞くんの一言に、そこにいた男性陣がゆっくり、でも確かに首を縦に振った。

「拓実くんに見られたらいろいろ言われそう。
でも、この中から誰か出るなら、私しかいないんだよね、出てみる!」

「おお、よく言った、理名!」

華恋がパチパチと拍手をする横で、他の皆が顔を曇らせていたのが気になった。

「んじゃ、私今日も生徒会の手伝いだから、行ってくるね!
あ、華恋、演劇部にも顔出してあげなよ?

部活の皆にも寄せ書き頼んだんだからね!

きっと皆、泣いて喜ぶよ」

秋山くんの無理しすぎるなよという言葉を背中に受けながら深月が保健室を出て行く。

それを合図にしたように皆が列をなして保健室を出た。

私たちは軽音楽部、美冬だけは放送部だ。

「あれ、麗眞くんは?」

「麗眞なら、華恋に呼び止められて少し話をしてるはず。
先に部室行っていよう」

いつから鍵を持っていたのか、椎菜が胸ポケットから部室の鍵を取り出す。

「華恋もいつも通りに戻るみたいだし、少しは希望見えてきたね!

練習も頑張っていこ!」

椎菜がそう言うと、皆の士気が上がる。

パート振り分けも終わり、練習を始めようとしたとき、女の子2人が部室に来た。

「深月、いない?

書記だけど出来ることはやりたいって言うから生徒会の仕事で倉庫に文化祭に使う荷物を運んでほしいって頼んだの。

いつもならすぐ帰ってくるのに、さすがに遅くて」

「どっかで油売ってんじゃね?

悪い皆、俺探してくる。
キーボード抜きで練習進めててくれ」

スマホで誰かに電話しながら、部室を出て行く秋山くん。

「ね、倉庫ってどこだっけ?」

「体育館の横」

椎菜が手慣れた様子で機械を操作する。
GPS機能だ。
点で皆のそれぞれの機械の色が分かるようになっているようだ。

私たちはこの部室に集まっている。

華恋は保健室。

麗眞くんと秋山くんは体育館に向かっているようだ。

深月が示す点は、体育館横の倉庫から動いていない。

椎菜が深月の端末の詳細を見ると、録音されている音声があるようだ。

それをアンプに繋いで、皆で聞いてみる。

『浅川さん、だったかしら?
生徒会の仕事に入り浸りすぎよ。
たかが下っ端の書記のくせに。

あなたにはあなたの居場所があるでしょ。

その温室みたいな場所でぬくぬく過ごしてなさいな。

書記だからって、文化祭の情報とかもリークされたら困るのよね。

あなたこの間、文化祭の企画の話、聞いてたのでしょう?

困るのよね、決定事項じゃないのに決まったかのように話されたら。

迷惑を被るのはこちらの方なのよ。

そんなことも分からないおこちゃまには、お仕置きしないとね』

『そうそう。
それに、編入してきた子と移動の度にいちゃつくのも目障りなのよね。
場をわきまえなさいな。

もっと言うと、お友達のラジオ番組でチヤホヤされてるのもムカつくの。
あと、理事長の息子さんと仲良くお話してるのもね。

お友達もアナウンサー気分かしら?
あなたもあなたなら、お友達もお友達ね。
類は友を呼ぶってこのことかしら。

今日1日、そこで反省することね。
この場所は編入したばかりの子は知らないわ。

助けなんて期待しないことね』

「お言葉ですが。
美冬は、放送部の彼女は彼女なりに血のにじむような努力をして、毎週番組やってるんです。

その努力を知らない、間近で見てもいない貴方たちに美冬の悪口を言う資格はないです。

前言撤回してください」

「何よ、ホント年下のくせに生意気!
お子様のくせに!」

ガタン、物音が複数回聞こえたあと、音声は途切れた。

「これは私の推測。
深月は体育館横の倉庫に閉じ込められている。
おそらく生徒会の先輩ね。
口調からして」

椎菜はそう言って、私たちの輪から離れないまま、スマホで誰かと連絡を取る。

電話口の相手は自らの彼氏、麗眞くんらしい。

「麗眞も秋山くんも同じ見解、と。
皆端末は共有だから、私たちと同じ音声を聞いたのね?了解。

ん?
端末にGPS反応が増えた?
しかも麗眞たちの目的地に?

あ、キャッチホンが来たの?

うん、わかった。
また後で」

数分後、麗眞くんから椎菜に通話が来た。

「琥珀ちゃんが?
うん、了解」

「あのね、麗眞から通話があって、琥珀ちゃんがなんだかあのムカつく後輩を倉庫に閉じ込め
た、みたいな会話を聞いたみたい。

正義感の塊の琥珀ちゃんは気になって、どういうことか吐かせたんだって。

それで、深月がいる倉庫に辿り着いたみたいなの。

だけど、机がかなり積まれてたり、竹ほうきとか普通のほうきとかまで立て掛けられてドアが開かないようにされてるみたい。

琥珀ちゃんだけじゃ処理しきれないんだって」

なるほど、琥珀ちゃんならやりそうだ。
先輩にも情け容赦はしないだろう。

麗眞くんからその音声が届いて20分は経っただろうか。
そろそろ帰りの時間だ。

椎菜のスマホに麗眞くんからの着信が入った。

椎菜が電話に出たのと、早く帰れという放送が流れるのは同時だった。

「うん、うん、良かった!
なんか琥珀ちゃんらしいね!

うん、秋山くんも深月自身も、その方が安心でしょ?そうしてあげて?

あ、琥珀ちゃんに明日食堂でお昼食べようって伝言をお願いね!
うん、この間のメンツで!

ん?分かった、昇降口で待ってるー!
また後でねー!」

椎菜によると、机をちまちま下ろすだけでは埒が明かないと感じた琥珀ちゃん。

彼女が、とにかく立て付けの悪いドアを蹴り飛ばして倉庫に入り、深月を助け出したらしい。

どうやら先輩たちに突き飛ばされたはずみに、肘を怪我したらしい深月の手当をしてから、秋山くんが深月を家まで送るようだ。

琥珀ちゃんに助け出してくれたお礼を言うことと共に詳細のヒアリングを明日の食堂でするらしい。

「私は昇降口で麗眞を待ってから帰るね!
理名、ごめん。

部室の鍵、職員室に返してくれるかな?」

鍵を私に預けて、さっさと椎菜は昇降口に向かった。

私も鍵を預けて、職員室を出ると、下駄箱からローファーを取り出して家路についた。

占いは文化祭の企画のことを言っていたのだろう。
数日後に、そうではなかったと知るなんて、このときは思ってもみなかった。
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