ビターチョコ
疲れた……
塾の帰り。
電車に揺られながらウトウトしていた。

危うく最寄り駅を通過されるところだった。
結論からいうとさすが難関医学部への合格率が8割と謳うだけのことはある。
授業のレベルは高い上に、スピードもかなり速かった。

この塾、向いてないな。

そもそも、塾通いが向いていないのかもしれない。
今通っている学校への受験だって、塾には通わずやってのけたのだ。

学校での人間関係だけで手一杯の私には、塾でも新しい人間関係を構築しなければならないなんて鬼畜すぎる。

それに、授業のスピードについていくだけで精一杯だった。

自分のレベルがどれだけ目指すところに届いていないか思い知ることができただけでも良かった。

塾通いは止めよう。

そう決心すると、今日のこの時間が無駄なものに思えて仕方がなかった。

皆は麗眞くんの家で何をしていたのだろうか。

電話して聞いてみようかとも思ったが、電話して見たところで明日は土日なのだ。

聞くのは週明けで良いだろう。

帰宅して制服から適当な服に着替えたあと、ベッドに倒れ込んだ。

土日は時間があればノートの見直しと、予習復習を行った。

疲れたと感じたら昼寝をして過ぎていった。

週明け。
眠い目を擦りながら教室のドアを開ける。

深月がどうしよう、とやけにソワソワしていた。
日直の華恋や放送部の準備で早く来ていた美冬とともに話を聞く。

金曜日、麗眞くんの屋敷で皆で話している最中に熱を出して倒れた深月は秋山くんに看病されたようだ。

その際に熱を出したことではなく、体調の異変や疲れが溜まっていることを、自覚しないまま無理しすぎたという。

軽く怒られたらしい。

そういうところは彼女を中学生の頃から見ていただけのことはある。

そっとしておこうと部屋を出た秋山くん。

深月が彼の服の裾を掴んで引き留めたらしい。
秋山くんには、理性が持たないとか病人とキス以上のことはするつもりないとか何とか言われたようだ。

深月が勇気を出して、治ったらしてくれるの?と熱で潤んだ目と紅潮した頬で言ったようだ。

すると、割と深めのキスとともに治ったら好きな子からのエッチなお願い聞いてあげるから、早く治せと言われたらしい。

「あらあら。
いつの間にそんなことに?
深月もやるねぇ。

まぁ、据え膳食わぬは何とやらって昨日言ったけど、その通りでしょ?

全く、麗眞にも見習わせたいわ。

麗眞、看病はちゃんとしてくれるの。

だけどね、こっちは体調崩しててしんどいのにあわよくばと思ってパジャマの上から胸触ってくるし。

本人曰く、私が治るまでオアズケだからこれくらいは許せってことらしいけど」

「潤んだ目と熱のおかげもあるけど真っ赤な顔は理性崩壊させるには十分でしょ。

私もね、賢人といるようになってからパニック障害の発作は出る頻度減ってきてるんだ。

発作出たときはいろいろ看病だったり起きるまでそばにいたりしてくれるから嬉しい。

だけど、だいたい治まった後、そういうことするといつもより余裕ないっていうかちょっと強引かな」

「深月もそのうち分かるって。

好きな人と心も身体も結ばれるって最高だし、幸福感ヤバイよ。

秋山くんならちゃんと気遣って優しくしてくれるでしょ。

本人に余裕があれば、の話だけど」

「そして、噂をすれば」

その言葉とともに美冬がドアに目をやると、眠そうにしながら小野寺くんと秋山くんが登場した。

「お前ら女子ってホント好きだよな、こういう話題」

「まぁ、そう言うなって。

美冬、準備まだなら俺も手伝うから、早く終わらせようぜ。

ってか、今日人少なくね?」

「バレー部が遠征で練習試合するからいないんだって。
それは琥珀ちゃんに伝えてあるから、もしかしたら美冬の番組宛にハガキか手紙が来てるかもね。

だって、こういうときでもないと、アプローチかけたい本人に、アドバイス聞かれちゃうでしょ?」

今日から本格的に教室に復帰したと思ったら、既に華恋の本領発揮だ。

だいたい、演劇部の華恋が縁遠いはずの運動部の、バレー部が遠征という情報をどこで手に入れたのだろうか。

美冬と小野寺くんを見送る。
それと入れ替わるようにこの学園の名物カップルが教室に入ってきた。

「おはよ。眠い。

麗眞が深夜まで寝かせてくれないからじゃん!

ホントにもう、するならほどほどにしてよね!

授業に支障出たら罰としてしばらくオアズケだ
からね、キス以上はさせません。
今日のお昼休み明け体育だし。

腰痛いから絶対バスケでいつもみたいに動けないなぁ。

もうオアズケ確定ね」

「あ、そういえば体育だっけ。
忘れてた」

体育か。
私はダンスなんて絶対迷惑をかけるのでバスケを選んだ。

バスケでも迷惑をかけっぱなしだ。

パスを出そうとしたら、狙った箇所とズレたところにボールが飛んでパスカットされることはしょっちゅうだった。

この中で麗眞くんと華恋はダンスを選択している。
美冬と小野寺くん、深月と秋山くんはバレーボールだ。

1時間目の授業を終えて、お昼休み。

美冬は本日もラジオ番組を生放送中だ。

そして、今日は華恋もゲストらしい。


お悩みカルテのコーナー。

夜道で襲われそうになったところを助けてくれた人に菓子折りを渡す以外のお礼がしたいがどうすればいいかわからず悩んでいるというお便りが読まれた。

ああこれ、十中八九、お便りの投稿主は琥珀ちゃんだな。

華恋がまずは連絡先をGETした後、お礼がしたいからカフェでお茶でもどうですかと誘えば良いとアドバイスをする。

連絡先はどうGETすればいいですかねという美冬のわざとらしいフリが冴えていた。

華恋はその人が運動部所属ならマネージャーになる方法があると提案する。

マネージャーなら部員と連絡取り合うこともあるだろうし自然な流れで連絡先が手に入るという。

もう一つの手として、運動部だと試合の遠征等がある。
その間授業は聞けない。
その分のノートのコピーを渡し、付箋に自分の連絡先を書いて向こうから連絡させる手もあるという。

「それはいい手ですねー。

少なからず自分のためにノートのコピーをくれた人にお礼は言いたいでしょうし」

美冬の相槌も的確だ。

琥珀ちゃんへのアドバイスをして、いつものように恋を応援する歌詞が甘いラブソングを流して番組は終わった。

華恋が復帰したことで、華恋自身にも要約して事の経緯を話させたため、今日のコーナーの尺はいつもより短めだったのだ。

体育はダルかった。

私はバスケだったのだが、シュートは外すわ、パスは取られるわ、散々だった。

パスされたボールを受け取ろうとして指でボールを弾いてしまい、ヒンシュクを買った。

麗眞くんといろいろシたあとだからか腰が痛いと言っていた椎菜。
その動きは俊敏で、3ポイントシュートも1度だけ決めていた。

その様子を見ていたのか、褒めてもらった麗眞くんとハイタッチしていた椎菜。

耳元で彼に何か言われて顔を赤くしていた。
その後、麗眞くんはバレーやバスケにも参加していた。

麗眞くん、ダンス選択してるんじゃないの?

「今日はバレー部の奴らが遠征で出払ってるからな。

余裕のあるやつがピンチヒッターとして入ることになってるんだ。

宝月はダンスを選択した奴らにフリを教えてるんだが、そっちが一段落したんだろう。

ちなみに、女子は帳が教えることになってる。

2人は他の通年ダンスを選んでる数少ない貴重な人間だから、こういう形で他の競技には参加してもらってる。
ってことで納得したか、岩崎」

聞いてもいないのに、教師が勝手に解説をしてくれた。

自由すぎるぞ、この学園。
いいのか?


なんだかこの学園の自由さを2年目にして見せつけられた体育の授業が終わる。

次は座学だ。
皆体育の疲れが出たのか、話を聞いていないものが続出して、教師の激が飛び、授業の半分は説教だった。

ほぼ説教の授業と呼べないものは終わり、グッタリしていると、ホームルームの前に美冬と小野寺くんが華恋と何か話していた。

「日直だから掃除しなきゃだし、その後演劇部にも顔出さなきゃだし、後から行く。

お二人さんのデートの邪魔したくないしね。

深月と秋山くんは明日だったよね?
秋山くんは病み上がりの深月が心配だって言って、HR終わったらソッコーで帰ったし」

3人は何を話していたのか気になった。

ただ遊びに行く風ではなかった。

ただ遊びに行くだけなら、深月たちのことを気にする必要はない。

華恋の掃除を手伝いながら、皆に聞こうかとも思った。

「理名は現代文赤点ギリギリだったんだから補習を受けることになるかもね?
その心配をした方がいいんじゃない?」

皆には上手くはぐらかされてしまった。

しかも、部活の集まりも悪い。

夏休みが明けたらすぐ文化祭だということを忘れてやしないか。

皆が私がいないところで何かを話し合っている様子だった。

一体何を?
私に関係あること?
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