ビターチョコ
翌日の昼休み。
塾ではなく、大学受験のための通信教育サービスを利用することにした。
それはいいのだが、得意な教科と苦手な教科の点数の差が開きすぎている。
スタートした感謝として付いていた模試をとりあえず解いてみたが、理数系と英語の差が20点以上だ。
ちょっとこれはマズい。
落ち込んでいると、志望大学の赤本とともに募集要項が目に入った。
読んでみよう。
そういえば、前のバイト先で一緒になった大学生が所属しているのが、私の今の志望校だ。
何なら、もっと情報を仕入れておけばよかったなぁ。
センター試験科目は英語、理科(物理、科学、生物から1科目選択)、数学(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)と書かれていた。
あれ、理科1科目?
2科目だから苦手な化学よりは物理を選んだほうがマシだと思っていたのに。
生物なら得意だ。
そして相変わらず放課後は、部活の集まりが悪い。
一人で練習しても面白くない。
帰ろう。
鍵を返して、少し喉が渇いたため、昇降口近くの自販機コーナーでカフェオレを買う。
このカフェオレは苦味の加減が絶妙で後味が甘くないため、好きなのだ。
パキッと音を立てて蓋を開けたところで、上から降ってきた声に顔を上げる。
「あ、理名ちゃん。
こんにちは。
今日は部活じゃないの?」
話しかけてきたのは1年生の時の担任、三上先生だ。
この先生は、授業以外だと生徒を下の名前で呼ぶのだ。
親しみを込めてのことらしい。
担任だった頃よりは伸びた髪を後ろで束ね、グレーのブラウスの胸元には小ぶりなネックレスが光っている。
「三上先生。
お久しぶりです」
「自分が変われば周りも変わるわ。
1年生の頃の貴女と比べちゃいけないけど、まるで別人みたいなんだもの。
あの子たちもなにかあるのよ、きっとね。
高校生での友情って一生モノよ。
大学に入っても、社会人になっても続く友情はきっとこの頃に深くなるんだと思うわ。
まぁ、中学校からの友人も人によってはそうなのだろうけど。
華恋ちゃんと美冬ちゃんみたいにね。
あなたにとってはほぼ初めての深い友人関係。
だからね、1度結んだ絆がそう簡単に壊れるはずがないのよ。
信じて、話してくれるのを待ってあげなさい」
私の隣のベンチに腰掛けた三上先生が、にっこり微笑む。
「あ、そうそう。
理事長がアンケート取りたいって言うから、そのうちホームルームで配られると思うわ。
第二外国語への意見。
大学だと第二外国語は普通だし、今から環境に慣れるためにも、ウチで導入したいとお思いみたいなの。
生徒がどういう反応をするか気になるから、事前に調査したいみたい。
協力よろしくね?」
パチ、という擬音が聞こえてそうな見事なウインクに、私はただ頷くしかできなかった。
「美冬ちゃん、いないのね。
いたら教師も投書していいかどうか聞こうと思ってたのに」
「多分、いいと思いますよ。
どうせペンネームですし」
「そうよね!
今度投書してみようかしら!
大人はいろいろと悩みが尽きないのよね。
ありがと、理名ちゃん。
貴女の楽しそうな顔が見れてちょっと安心したわ。
私も元担任として、貴女が元気ないと悲しいもの。
もちろん、進路のことも心配なのよ?
貴女の目指してる大学、なかなかにレベル高いし。
何かあったらいつでも相談にのるわ」
「三上先生、ありがとうございます。
私も、少し気が楽になりました」
「生徒の笑顔が一番、疲れた身体に沁み渡るのよね。
帰るなら気をつけてね?」
三上先生はそう言って、ミントグリーンのサテンプリーツスカートをヒラヒラと風に揺らしながら廊下を歩いていった。
「帰るか」
そうつぶやいて、帰宅の途についた。
通信教育サービスの問題集でも持ってくればよかったかな。
そしたら定期試験前の学生よろしく勉強できたのに。
何気なくオシャレなアイスクリームの店が気になって店内をチラリと覗くと、知っている顔を見かけた。
琥珀ちゃんと巽くんがいた。
看板と外観がポップで可愛い店に、琥珀ちゃんはともかく巽くんがいるのが意外だった。
何やら2人は笑顔を見せているわけでもなく、仏頂面で何やら話している。
華恋や深月の見立てだとお互いに気があるみたいだったけど、違うのかな?
まぁ、気になるなら次に会ったときに聞いてみるか。
聞かなくても、深月や華恋がその話を肴にガールズトークをしているかもしれないけれど。
翌日。
私のクラスではなく、隣のクラスから女子の高い声が複数聞こえた。
なんだろう?
「はぁ?
そんなことしてたの?
っていうか、それでなんでアンタも告らないわけ?」
「俺の私服が気になるから休日に出かけたいってことでOK?なんて、もろにデートに誘ってくださいの盛大なフリじゃない!
あーもう!
琥珀、ニブすぎ!
演劇部の脚本のネタにしちゃうぞ?」
「そうそう。
傍から見るとお互い、どう見ても両想いなのにね。
お互い本当にニブいのか、気づかないフリをしてるのか。なんなんだろ。
もう行事は文化祭と修学旅行だけだね。
そのどっちかで、さっさと告っちゃえばいいのに」
「そう言われても、何て言えばいいか分かんないし。
そもそも、恋愛なんて今まで1回しかしたことないし。
中学の時も、男より強い女って俺無理だわって言われて3ヶ月でフラれたし。
だから、ちょっと怖いっていうか」
珍しく琥珀ちゃんが弱気だ。
「ま、いいんじゃね?
優弥本人も、琥珀ちゃんのこと気にかけてるみたいだし」
口を挟んだのは男性の面々。
小野寺くんがどこで情報を得たのかそんなことを言うと、タイミングよく別の声が2つ。
バレー部の遠征の帰りにサービスエリアでトイレ休憩になって、集合時間までの時間つぶしにお土産買ったんだとさ。
家族の分と、琥珀ちゃんの分。
いつ渡そうかすげー悩んでたから、この学園内で昼休みに人が減る穴場のところ教えてやったけど」
「穴場なんてあるのな。
そこでなら昼休みにイチャつけるかな。
もちろん深月とだけだよ?
ちなみに穴場が屋上だったとしても俺は行かないから安心してな」
いつの間にか、麗眞くんと秋山くんが登校して来ていた。
皆青春してるなぁ。
皆が羨ましくなった。
塾ではなく、大学受験のための通信教育サービスを利用することにした。
それはいいのだが、得意な教科と苦手な教科の点数の差が開きすぎている。
スタートした感謝として付いていた模試をとりあえず解いてみたが、理数系と英語の差が20点以上だ。
ちょっとこれはマズい。
落ち込んでいると、志望大学の赤本とともに募集要項が目に入った。
読んでみよう。
そういえば、前のバイト先で一緒になった大学生が所属しているのが、私の今の志望校だ。
何なら、もっと情報を仕入れておけばよかったなぁ。
センター試験科目は英語、理科(物理、科学、生物から1科目選択)、数学(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)と書かれていた。
あれ、理科1科目?
2科目だから苦手な化学よりは物理を選んだほうがマシだと思っていたのに。
生物なら得意だ。
そして相変わらず放課後は、部活の集まりが悪い。
一人で練習しても面白くない。
帰ろう。
鍵を返して、少し喉が渇いたため、昇降口近くの自販機コーナーでカフェオレを買う。
このカフェオレは苦味の加減が絶妙で後味が甘くないため、好きなのだ。
パキッと音を立てて蓋を開けたところで、上から降ってきた声に顔を上げる。
「あ、理名ちゃん。
こんにちは。
今日は部活じゃないの?」
話しかけてきたのは1年生の時の担任、三上先生だ。
この先生は、授業以外だと生徒を下の名前で呼ぶのだ。
親しみを込めてのことらしい。
担任だった頃よりは伸びた髪を後ろで束ね、グレーのブラウスの胸元には小ぶりなネックレスが光っている。
「三上先生。
お久しぶりです」
「自分が変われば周りも変わるわ。
1年生の頃の貴女と比べちゃいけないけど、まるで別人みたいなんだもの。
あの子たちもなにかあるのよ、きっとね。
高校生での友情って一生モノよ。
大学に入っても、社会人になっても続く友情はきっとこの頃に深くなるんだと思うわ。
まぁ、中学校からの友人も人によってはそうなのだろうけど。
華恋ちゃんと美冬ちゃんみたいにね。
あなたにとってはほぼ初めての深い友人関係。
だからね、1度結んだ絆がそう簡単に壊れるはずがないのよ。
信じて、話してくれるのを待ってあげなさい」
私の隣のベンチに腰掛けた三上先生が、にっこり微笑む。
「あ、そうそう。
理事長がアンケート取りたいって言うから、そのうちホームルームで配られると思うわ。
第二外国語への意見。
大学だと第二外国語は普通だし、今から環境に慣れるためにも、ウチで導入したいとお思いみたいなの。
生徒がどういう反応をするか気になるから、事前に調査したいみたい。
協力よろしくね?」
パチ、という擬音が聞こえてそうな見事なウインクに、私はただ頷くしかできなかった。
「美冬ちゃん、いないのね。
いたら教師も投書していいかどうか聞こうと思ってたのに」
「多分、いいと思いますよ。
どうせペンネームですし」
「そうよね!
今度投書してみようかしら!
大人はいろいろと悩みが尽きないのよね。
ありがと、理名ちゃん。
貴女の楽しそうな顔が見れてちょっと安心したわ。
私も元担任として、貴女が元気ないと悲しいもの。
もちろん、進路のことも心配なのよ?
貴女の目指してる大学、なかなかにレベル高いし。
何かあったらいつでも相談にのるわ」
「三上先生、ありがとうございます。
私も、少し気が楽になりました」
「生徒の笑顔が一番、疲れた身体に沁み渡るのよね。
帰るなら気をつけてね?」
三上先生はそう言って、ミントグリーンのサテンプリーツスカートをヒラヒラと風に揺らしながら廊下を歩いていった。
「帰るか」
そうつぶやいて、帰宅の途についた。
通信教育サービスの問題集でも持ってくればよかったかな。
そしたら定期試験前の学生よろしく勉強できたのに。
何気なくオシャレなアイスクリームの店が気になって店内をチラリと覗くと、知っている顔を見かけた。
琥珀ちゃんと巽くんがいた。
看板と外観がポップで可愛い店に、琥珀ちゃんはともかく巽くんがいるのが意外だった。
何やら2人は笑顔を見せているわけでもなく、仏頂面で何やら話している。
華恋や深月の見立てだとお互いに気があるみたいだったけど、違うのかな?
まぁ、気になるなら次に会ったときに聞いてみるか。
聞かなくても、深月や華恋がその話を肴にガールズトークをしているかもしれないけれど。
翌日。
私のクラスではなく、隣のクラスから女子の高い声が複数聞こえた。
なんだろう?
「はぁ?
そんなことしてたの?
っていうか、それでなんでアンタも告らないわけ?」
「俺の私服が気になるから休日に出かけたいってことでOK?なんて、もろにデートに誘ってくださいの盛大なフリじゃない!
あーもう!
琥珀、ニブすぎ!
演劇部の脚本のネタにしちゃうぞ?」
「そうそう。
傍から見るとお互い、どう見ても両想いなのにね。
お互い本当にニブいのか、気づかないフリをしてるのか。なんなんだろ。
もう行事は文化祭と修学旅行だけだね。
そのどっちかで、さっさと告っちゃえばいいのに」
「そう言われても、何て言えばいいか分かんないし。
そもそも、恋愛なんて今まで1回しかしたことないし。
中学の時も、男より強い女って俺無理だわって言われて3ヶ月でフラれたし。
だから、ちょっと怖いっていうか」
珍しく琥珀ちゃんが弱気だ。
「ま、いいんじゃね?
優弥本人も、琥珀ちゃんのこと気にかけてるみたいだし」
口を挟んだのは男性の面々。
小野寺くんがどこで情報を得たのかそんなことを言うと、タイミングよく別の声が2つ。
バレー部の遠征の帰りにサービスエリアでトイレ休憩になって、集合時間までの時間つぶしにお土産買ったんだとさ。
家族の分と、琥珀ちゃんの分。
いつ渡そうかすげー悩んでたから、この学園内で昼休みに人が減る穴場のところ教えてやったけど」
「穴場なんてあるのな。
そこでなら昼休みにイチャつけるかな。
もちろん深月とだけだよ?
ちなみに穴場が屋上だったとしても俺は行かないから安心してな」
いつの間にか、麗眞くんと秋山くんが登校して来ていた。
皆青春してるなぁ。
皆が羨ましくなった。