ビターチョコ
この2人が来ているということは。
おそらく来ているだろう。
学園の公認カップルの片割れ。

おそらく学園全員の憧れの的。

「おはよー皆ー!」

順番に私を含む皆の肩を挨拶がてら叩くのは椎菜だ。

「おはよー」

対して、いつも眠そうな素振りは見せないのに眠そうにしているのは深月だった。

深月も椎菜には負けるが人気だ。

放送部の部員たちには、軽音楽サークルだけじゃなくて放送部も掛け持ちすれば良いのにと言われている。


深月の眠そうな様子に何かを勘付いたのだろうか。

何やら女子同士で深月を囲むように群がると、シャツ出てるよ?と美冬か椎菜が声を掛けて、深月の制服のシャツをスカートにinさせてやろうと奮闘する。

その最中、チラリと見えた腰辺りの紅い痕。

これって、もしかしてもしかしなくても……

「あれ?深月?
もしかして……」

華恋の確信したような半笑いを、深月は笑顔を引っ込めてかわした。

「残念。
まだ未遂だよ。
いざ、ってなったらやっぱりあの時のがフラッシュバックしちゃってね。

なんでなんだろうね。
目の前の人は私をあんな目に遭わせたやつじゃなくて、大好きな人なのにね。

ミッチーもミッチーで、優しすぎるのよ。

ちょっとぐらい強引にしてくれればいいのに。

怖くなったらいつでもストップかけていいよなんて言うから、ストップかけちゃった。

ミッチーに申し訳ない。

痛みも怖さも、大丈夫だって、思ってたのに」

「秋山くんのこと見習ってほしいわ、ウチの麗眞も。

一昨日なんて、体育のバスケ、いつもどおりどころかいつもより動き良かったから、オアズケじゃなくていいよね?なんて言ってさ。

なかなか寝かせてくれなかったもん。

何Rやれば気が済むんだって感じだった。

いっつも激しいから、こっちは身体中痛いんだから」

それで合点がいった。
昨日は珍しく、椎菜ちゃんの両目にうっすらクマができていたのだ。

「なるほど?
一昨日の体育の授業で椎菜が何やら耳元で彼に言われてたのはそれだったのね」

「ミッチーは、ちょっとだけ見習ってほしいかも、麗眞くんを。

ちょっとくらい強引にきてくれたほうが覚悟できてるぶん、いいのに」

「いいよ見習わなくて……

土曜日ならいいんだけど、日曜日とか、翌日学校ある日にされると本当に支障出る。

睡眠不足になるし場所考えずに痕刻むし。

こっちの体力考えてほしい。
私は体力無限じゃないんだけどなぁ。

免疫力落ちて風邪引いたら150%麗眞のせい」

「とか言ってるけど、顔ニヤけてるぞ?
この幸せ者ー」

美冬や華恋、深月に冷やかされる椎菜。

いいなぁ幸せそうで。

そんな椎菜の頭をぺしんと柔らかく叩くと、当の本人が登場した。

「もうすぐ予鈴鳴るぞ。

いつまでも朝からキャーキャー騒いでないで、自分のクラス戻って準備したほうがいいんじゃね?

ここ、琥珀ちゃんのクラスだし。

バカ騒ぎして悪かったな、琥珀ちゃん。
お互い、授業頑張ろうぜ」

そういうが早いが、秋山くんが深月を、小野寺くんが美冬を、麗眞くんが椎菜をそれぞれ引っ張っていった。
行き先は自分のクラスだ。

なすがままに引きずられる皆に、気にしてないよというようにジェスチャーを送るのは琥珀ちゃんだ。

私が授業の準備をしてる間に、また何やら私以外のメンバーで話している。

「そっか、麗眞と椎菜は今日だっけ?」

「そうだけど、俺たちは話を聞く専門だ」

「そっか!

張本人たちだもんね。
なんやかんや言ってそれが一番かも」

「昨日は私とミッチーだったの。
大分目星ついたみたい」

「んじゃ、俺と椎菜が今日話聞ければ予定より早まりそうだな」

「任せてよ!」

椎菜は私を一瞬見てから、皆に頷く。

なんの話し合いなんだろう……

「いろいろ兼ねたいからな。
準備は周到にしないと」

そんなことを話していると、担任教師からの喝が飛んだ。

「こらー!

予鈴はとっくに鳴ったぞ!
聞こえんかったか!

早く席につけー!

始業が遅れる!」

みんなが文句を言いながら、他方はむくれながら散り散りになる。

今日も憂鬱な1日が始まる。

その日の食堂。
放送部で美冬以外にも彼女のように番組をやりたいという生徒がいるため、今計画を練っているところだというので、美冬は不在だ。

今日の輪の中心は小野寺くんだ。

「どうしましたか?
美冬のことで何かお悩み?」

華恋が話を振ると、小野寺くんが神妙な面持ちで話し出す。

「俺、付き合って1年の記念日をすっかり忘れててさ。
何をあげれば、許してもらえるかなって、相談したくて」

「なるほど、そういうことですか」

「美冬は記念日とか、きっちり覚えてる人じゃないからね、女子にしては珍しく。

だから、本人も忘れてる可能性ありそうだけどね」

「だから、気持ちでいいんじゃない?
私なら、常に持ってるもので絆を確認したいならスマホケースとか!」

「それ、いいな。
美冬のスマホケース、そろそろガタが来てるっぽいし」

「ねぇ、理名は?
理名が拓実くんと無事に記念日を迎えられたとしたら、欲しいものだよ!
何がいい?」

椎菜がそう問いかけてきた。
話の矛先を、私に向けないでほしかった。

「そんな深く考えなくていいんだよ?」

「そうそう、素直に拓実くんから貰うと嬉しいものを言えばいいのよ」

しばらく考えて、あるものが浮かんだ。
私自身は、そんなものとは縁遠いと思っていたけれど。

この学園の公認カップルが、いつも着けているので憧れだったのだ。

「……指輪、がいいかな。

やっぱり、安いものじゃないからこそ、ちゃんと私のこと考えてくれてるんだ、って気持ちが伝わるから。

それに、まだお互い未成年で親の目もあるし、四六時中一緒にいれないからこそ。
離れてても大丈夫、って安心感があるかな」

「そうだよな、皆。
気持ち決まった。
ありがとう、理名ちゃんのおかげだ」

小野寺くんはそう言って、自分の注文したラーメンをすすり始める。

その後、麗眞くんが小野寺くんを一瞥してアイコンタクトを取る。

その日は特に何事もなく過ぎていった。

相変わらず部活がないかと思ったが、今日は道明くんも深月もいたので、少しだけ練習した。

「やっぱね、キーボードもだけど。ボーカルがちゃんとしてないとね!

高音域は私か椎菜でなんとかなるけど、
低音域がね。

麗眞くんは何を歌っても元がいいから、アイドルソングになっちゃうし。

王道のアイドル曲はそれでいいんだけど、バラードでそれだと台無し。

父親の血をひきすぎてるわ。
ってことで、理名!
ちょっと歌ってみ?」

深月の一言で、私がなぜか仮のボーカルをやらされた。
しかもバラード曲ばかり。

私、高音域じゃないんだけどな、中学校の合唱のときもパートはアルトだったし。

まぁ、その時は歌うことになんて興味なかったから、ソプラノを壊さないように音量小さめで歌ってたけど。

「うん、思ったとおり。
私や椎菜の高い声を邪魔しない音域と音量!
完璧よ!

ボーカルは私と椎菜と理名の3人でローテってことで、どう?

ちょっとカラオケみが強いけど。

近々会議にかけて、何ならカラオケボックスて練習ね!
今日は解散!」

深月の鶴の一声で今日は帰宅となった。

翌日、登校前に見た占いのことを思い出す出来事が起こるなんて、想像すらしていなかった。

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