白い海を辿って。
どうすればいいのかさえも、これ以上彼を傷つけない方法も分からない。
だけどよみがえった恐怖を拭い去るには、やっぱり彼に抱きしめていてほしくて。
でも、今私からその胸に飛び込むことはしてはいけないような気がして。
こんなに近くにいるのに、触れることができない。
『明日実!』
とっさに部屋を飛び出そうとした私を彼が呼び止める。
だけど振り向けなかった。
彼に助けられて救われて、もう大丈夫みたいな顔をして家に来て。
なのに触れられたらやっぱり怖かったなんて、そんなの合わせる顔がない。
『待てって。』
玄関まで走った私を彼が後ろから抱きしめて引き止める。
『本当にごめん。怖い思いさせて。思い出させてごめん。』
謝らないでという思いで必死に顔を振る。
今彼に謝らせてしまうことが、何よりもつらかった。
『面倒だなんて思わないから。だから離れようとするな。』
彼も泣いているのかもしれない。
こんなに精一杯な声を初めて聞いた。