白い海を辿って。
「さっきの続きをしてほしい。」
『でも…』
「嫌なの。」
もう迷いはなかった。
ただ、触れたかった。
「触れられた最後の記憶が、ずっとあの人のままでいることが嫌なの。また怖いって思うかもしれないけど、私の記憶をはるくんに変えてほしい。」
いつの間にか落としてしまっていたエプロンが、廊下の奥に見える。
まっすぐに見つめ合った彼の目が、本当にいいのと聞いているようで。
ひとつ頷いたあと、彼の胸に体を預けた。
その後の記憶は、とてもおぼろげで。
だけど、恐怖よりも彼の優しさと温もりが上回っていくのを確かに感じていた。
きっと私はもう大丈夫で、過去は振り返らずに彼と前だけを見て歩いて行けると思った。
不安なことがあっても、すぐに頼れる人が傍にいる。
ありのままでいられる場所がある。
面倒だと思われたくなかった。
普通でいたかった。
その全部を、この人なら叶えてくれると、そう信じていた。