白い海を辿って。

『俺に会いに来たって言ったんだ。だから俺、話してきた。』

「話したの…?」


彼とあの人。

絶対に会うことなどないと思っていた2人。



『声かけられたときは驚いたよ。前に行った美術館で、明日実が落としたハンカチを拾ってくれた人だったから。』

「…え?」

『明日実の彼氏ですかっていきなり聞かれて、すぐに元彼なんじゃないかって思った。』


どうして彼に近付くの、そんな苦しさでいっぱいになる。

私が感じた想いやあの人にされたことを、彼には受けてほしくなかった。

私のせいで傷つけられるなんて、絶対に嫌だった。



『あの日偶然明日実を見かけて、俺が彼氏なのか気になってたらしい。明日実と別れてから引っ越して、今はあの辺りに住んでるみたいだ。』


ハンカチを拾ってくれたお礼を言おうと人混みの中で探した人。

あのとき感じていた視線、違和感。

あのときに私たちを見ていたのは…。


そういえば、彼はその後に行ったカフェでも出会ったと言っていた。

それが偶然なのか意図的なものなのか、確かめるのが怖くて何も聞けない。



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