白い海を辿って。
『なぁ、明日実。』
少しずつ速くなる鼓動と浅くなる呼吸を抑えようと握りしめた手に、彼の温かい手が重なる。
思い出すな、今、過去のことを…。
『信じられないかもしれないけどな、明日実に謝りたいって言ったんだ。』
「え…?」
『自分がしたことが明日実だけじゃなくて明日実の家族や自分の家族まで巻き込んで、警察沙汰になって。
自分は大学を辞めて、家族まで転職せざるを得なくなった。その事の重大さに引っ越してから初めて気付いたって。』
あの人のその後は、何も知らなかった。
引っ越した先でどんな生活をしているのか、考えようとしたこともなかった。
ご家族まで仕事を辞めてしまっていたことを知って、胸が痛む。
『手が…』
「手?」
私の手を握っている彼の手が、かすかに動く。
はっとして顔をあげると、彼はとても苦しそうな表情で何かを堪えるように俯いていた。
『明日実をぶった手が、無理やり身体を掴んだ手が、今でも忘れられないって…あいつ泣くんだよ。』
堪えていたのは涙だった。
必死で歯を食いしばる彼の姿に、私が先に泣いてしまう。