毒舌紳士に攻略されて
「これは……?」

差し出されたもの。それはどこか見覚えのある色褪せたハンカチだった。

「これ、いつかめぐみに返そうと思っていたんだ」

そう言うと坂井君は、私の手にそっとハンカチを握らせた。

「本当はもっと早く返したかったんだけど、なかなかタイミングが掴めなくてさ」

ハハッと笑いながらも、坂井君の瞳はしっかりと私の瞳を捉えて離さない。

「このハンカチの存在があったから、俺はずっとめぐみのことを想い続けられていた。……あの日、めぐみが声を掛けてくれなかったら、俺は受験に失敗したことを今も悔やんでいたと思う。あれからさ、受験や試験があるたびにこのハンカチを持参していたんだ。もしかしたらめぐみとまた会えるかもしれないって思って」

「坂井君……」

以前お父さんから同じ話を聞いてはいたものの、お父さんの口から聞くのと坂井君の口から聞くのとでは、全然違う。
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