イジワル副社長はウブな秘書を堪能したい
「さよなら」

 瑠海から離れ、彼を振り返らずに病室を出る。

 もうここには来ない。

 病院の裏口から出て兄が用意した車で空港まで向かう。

 途中、大聖堂が見えた。

 楽しい思い出と、悲しい思い出の両方がある。

 でも……今は悲しみの方が勝っていた。

 もしも願いが叶うなら、瑠海の記憶を全部消して欲しい。

 こんな思いをするのなら最初から出会わなければ良かった。

 恋なんてするもんじゃない。

 あの顔も、あの声も、あの眼差しも、あの温もりも……知ってしまったら決して忘れられない。

 忘れられるはずがない。

 だから、お願い。

 誰でもいいから私の中の彼の記憶を消して。

 窓から景色をボーッと眺めているといつの間にか空港に到着した。
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