シンデレラは硝子の靴を
最初はそんな余裕もあったのだが、始まると俄(にわ)かに忙しくなった。


照明が薄暗くされたり、お堅そうな司会によってパーティーが進むに連れ、乾杯の準備や瓶ビールの設置などに奔走する。


正直な所、一度も壇上で話している人を見なかったし、話も聞いていなかった。



ただただ、運んだり下げたり拭いたり、目まぐるしく動いていた。




―20時か。



段々と客も落ち着き始め、ふと腕時計に目をやれば、宴もたけなわだと悟る。



―後片付けが終われば、22時には家に帰れるだろうか。




テーブルの上の空になった皿を片付けながら、そんなことを考えていた所だった。





「もう一度!チャンスを下さいっ!!」




歓談中の人々とは異なる、男の必死な声が沙耶の直ぐ後ろから聞こえた。




「・・・」




驚いたものの、沙耶は振り向く事無く、黙々とテーブルの上を片付ける。




「困りますね、大伴さん。こんな所でそんな話を持ち出されては。」





続いて聞こえた声は、最初の声よりも幾分若いが、冷ややかだった。




「こうでもしないと、会ってくれないじゃありませんか…お願いです!今切られてしまったらウチは―」




「我が社には関係のないことです。」




「そんなっ―」




「それとも―」




冷ややかな方の男の声は、淡々とした口調のまま。




「今この場で、土下座でもしてみますか?」



恐らく耳を欹(そばだ)ててなければ。



沙耶くらい近くにいなければ聞こえ無いほど。



囁くようにそう言った。
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