シンデレラは硝子の靴を
瞬きするのも忘れる位に。


主語のない、突然の謝罪。


何が?と問い詰めてやりたい気もした。


けれど。



「シャワー浴びてくる。」



絡んだ手も直ぐに外されて。


呆然としたままの沙耶を置いて、何事もなかったかのように、石垣は部屋を出て行った。




「………何???」



残された沙耶は、起き上がることもせず。


ぽつりと呟く。


広い部屋には、それすらも反響する。



―大嫌いな最低野郎。



それは今も、この先もきっと変わらない不動の事実だろう。



「鬼の目にも涙って奴かしら。」



―いや、あいつは鬼以上に異常だから、そんなわけないか。



何か目的があって、あんな言葉を吐いたに違いない。


邪鬼が、普通の人間らしい発言をすると、実は普通の人間なんじゃないかと勘違いしてしまう。


パーティーの時の、人の良さそうなフリをする石垣の顔と、裏の顔を沙耶は知っている。


血も涙もない人間だと、知っている。



だが。



さっきの彼の憂いを帯びた目が。




―調子狂う。




いや、栗色の髪色が。




「何回謝られたって、私は騙されないんだから。」




沙耶の記憶を少しだけ、撫でたから。




だから戸惑ったのだと、自分に言い聞かせ、沙耶も部屋を後にした。

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