シンデレラは硝子の靴を
赤い滴が、今しがた立ち上がろうとした若い男の髪の毛から滴る。



心なしか、場内の静まりは先程よりも深くなった気がした。



臆せず、沙耶は男の顔を上から睨みつける。





「ふざけたことやってんじゃないわよ!あんたがその人に土下座するように仕向けたんじゃない!」




沙耶の手には空になったワイングラスが握られ、怒りで震えていた。




「君!何やってる!!!!」




途端にバタバタバタとホテルの人間が数人やってきて、沙耶を取り押さえる。




「も、申し訳ございませんっ!!!大変、申し訳ございません!!!私どもの教育の不行き届きでございますっ!!!!!」





何の抵抗もしていないのに、沙耶は三人がかりで押さえつけられ、恐らく支配人らしき人間が、それこそ土下座せんばかりに若い男に謝っている。




「何言ってんですかっ!!悪いことしてたのはそっちなのにっ!!!」



「黙れっ!!」




抑える男たちに口を塞がれ、沙耶は放せー!と暴れた。





「…へぇ。」




暫く黙っていた男は、顔に滴る紅の滴を拭い、そのままぺろりと舐めた。




そして、ゆっくりと立ち上がる。



白いワイシャツにも、紫の染みがみるみる広がっていっていた。




「私には、彼女の言っている事がさっぱりわからないのですが。これだけのことをここでするっていうことは、それなりの覚悟があるってことですよね?」





男の目は冷めていて、射抜くように真っ直ぐ沙耶を捕らえていた。



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