シンデレラは硝子の靴を
「私が誰か、わかっててやってるのかな?」



やってしまった。


と少しも思わなかったと言えば、嘘になる。



あと少しで勤務終了だったのに、高い時給がチャラになるなんて、がっかりだ。


これだったら、他のバイトしていた方がマシだった。



まぁ、久々にゆっくり眠れたし、それで良しとしよう。




単発で良かったと思った。




力が緩んだ男達の手を乱暴に振りほどき、自由になった所で沙耶は口を開く。




「貴方がどこの誰だろうが知ったこっちゃありません!どうぞお構いなく!あんたみたいなの相手にする仕事なんて、こっちから願い下げですから!!!」





ふんっと鼻で笑ってから、沙耶は唖然とする会場客を掻き分けて―というか、向こうから避けられ自然と道が出来ていたが―そのまま大宴会場を後にした。




―あー!!胸糞悪い!!




大股で歩きながら、沙耶は髪留めを外し、髪をほどく。




階段で1階に下りて、更衣室に戻り、荷物だけひったくるように掴んで、そのまま裏口に向かった。





「うわっ」




曲がり角で、人とぶつかりそうになり、はっと顔を上げると、数時間前に会った坂月が目を丸くしている。




「あ、すいません。」





沙耶はそれだけ告げて、そそくさと坂月の横を通り過ぎようとするが。




「待って。」




急に腕を掴まれ、沙耶はぎょっとした。




「何か、あったんですか?」




まだ勤務の終わる時間ではないし、着替えもせずにスーツのまま急ぎ足の沙耶はどう見ても様子がおかしい。



心配そうな坂月の目に、沙耶は自嘲気味に笑った。




「なんでもないんです。ただ、ちょっと失敗しちゃっただけです。」




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