シンデレラは硝子の靴を
―逃げたって仕方ない。
沙耶はフッと早い息を吐いた。そのせいで一瞬だけ、前髪がふわりと上がった。
意を決して、キッと二人の背中を睨みつける。
「ウチに何か御用ですか?」
12段しかない階段の1段目から、腕組みをしてきつく声を発すると、それに気付いた手前の男が、ゆっくりと振り返った。
「…やっと、お会いできましたか。」
今更気付く、栗色の髪に、沙耶はあっと息を呑んだ。
「余りにお忙しいようなので、今日も駄目かと思いました。」
スーツ姿で、沙耶の家の前からこちらを見下ろす男は。
「あんた…」
沙耶の記憶が目まぐるしいスピードで巻き戻しされ、ミュアンホテルの裏口まで辿り着く。
「あの時の、ボーイ…」
タン、タン、とゆっくり階段を下りる足音がする。
「先日は、どうも。」
驚いて目をパチクリする沙耶を余所に、階段の3段目で立ち止まった坂月はにこりと微笑んだ。
「突然で申し訳ないのですが―」
どこかで聞いた台詞に―バイト先で雇い主から腐る程聞いた―沙耶は眉を潜める。
「私と一緒に、ご同行願えますか。」
「・・・・・・は?!」
ただでさえ心身共に疲れているというのに。
―どういうことだ、それ。
沙耶は見開いた目を、さらに広げた。