シンデレラは硝子の靴を
「いや、ちょっと、私もやることがありますから、用があるならここで済ませていただけませんか。」
早朝、直ぐ近くの公園に、犬と散歩に来た年配の男がちらちらとこちらを見ているのを感じ、沙耶はできるだけ声を低くした。
「うーん、困りましたね…」
坂月が溜め息交じりに呟くのと同時に、沙耶はホテルでの失態を思い出す。
「もしかして・・・」
どやされるのだろうかと身構えた。
「貴方に用があるのは、私じゃなくて、私の雇い主なんです。」
坂月が困ったように頬を掻いたので、やはりそうかと思った。
しかし―。
何故一介のボーイである坂月が、ここに来るのか。
それがどうしても腑に落ちない。
余程人手でも足りなかったのだろうか。
「何か、相当おかんむりなようで…」
坂月が言葉を続けた。
沙耶はふぅと息を吐く。
―仕方が無い。
あの男はいけ好かないし、ワインを浴びせかけてやって後悔していないが、ホテル側には迷惑を掛けたと思う。
沙耶は無一文ながらも、必死で謝り倒そうと考えた。
「その人は、今何処に?」
「会社にいらっしゃいます。」
「…わかりました」
沙耶は渋々と言った表情で首を縦に振った。
坂月は明らかにほっとしたような様子で、階段を下りた。