シンデレラは硝子の靴を
坂月の背後に来ていた男はどうやら運転手らしく、先程停車していたロールスロイスに飛ぶようにして辿り着くと、慣れた動作で後部座席のドアを開けた。



途端、沙耶の頬が引き攣った。



―まさかとは思ってたけど、これ、この人らのだったのか。




「どうぞ。」



躊躇している沙耶に、坂月は中に入るように促す。


やはりあれだけのホテルとなると儲かってるらしい。坂月はただのボーイだというのに、こんな車に乗って移動するのを許されているのか。



沙耶は半ば呆れたように溜め息を吐いた。



そこである事を思い出し、背後に立つ坂月を振り返る。



「あの…」



「何ですか?」



坂月は笑みを絶やさず、首を少しだけ傾げた。



「うちの、、呼び鈴って、鳴らしました?」



このご時世だというのに、インターホンですらない、ブザーのことだ。



「あ、いえ。鳴らそうとした所で声を掛けていただきましたので。」



坂月は首を横に振る。




「そうですか。」




それを聞いて、沙耶はほっとした。

弟を起こしたくはなかったからだ。



パッと見た腕時計の針は、6時30分だった。




―いいや、今日のお弁当は、仕方ないけど買ってもらうようメールしておこう。




痛い出費だな、と思いつつ、今回の失態が弟にばれることは避けたい。



余計な心配をかけたくなかった。



「お願いします。」



言いながら、沙耶は恐らく一生に一度しか乗ることのないロールスロイスに乗り込んだ。
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