シンデレラは硝子の靴を
「彼女の事だから、費用とか心配してるんじゃないですか。」



「だろうと思ったから、先回りして、労災だって言った。」




石垣の答えに、坂月が噴き出した。



「労災!?そんなの出す気なんですか?」


「ばーか、出さねぇよ。そう言っとけば気ぃ遣わずに済むかと思ってな。」


理由を聞いて、坂月は成程と頷く。



「そうですね。。。」



「そろそろ行かねぇとまずいな。」



石垣は腕時計に目をやり、再び運転席のドアを開ける。



「なぁ、坂月…」



「はい?」



てっきりもうこれで会話は終了かと思っていた坂月は、ベンツに手を掛けたまま振り返った。




「時間って…厄介だな。」




「…はぁ…?」




「…なんでもない。…先行くぞ。」





惚ける坂月を置いて、石垣はさっさと車に乗り込み、エンジンをかけるとあっという間に消えた。




一人残った坂月は、溜め息をひとつ地面に落としてから、沙耶がいるであろう病室の辺りに視線を走らせる。





「時間…」




石垣がどんな意味を籠めてそう言ったのかは知らない。



ただ、同じ事を自分も思った。



だから。





「戻れなくてもいいから、進まないで欲しいって願うのは、我儘なのかな…」





誰に言うでもなく、一人言ちた。




秋の風が、冬の始まりを知らせていた。

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