シンデレラは硝子の靴を
「遅かったじゃねぇか。」



会社に戻ると、予想通り、と言うべきか。


石垣が腕組みをして、坂月の帰りを待っていた。


まぁ、帰るには早い時間帯とも言える。


実際、まだ残業している社員はかなり居る。



だから、社長が残っていたって別に何らおかしい点はない。





「―わざわざ、ここで待ってたんですか。」





坂月のデスクに座って待っているという事を除いては。





「何で連絡しなかった。」





「秋元さんのお母様の容態が急変したので、バタバタしてまして。報告が遅れて申し訳ありませんでした。」




冷ややかな石垣の声に対して、坂月は穏やかに答えることが出来るよう、精一杯努める。




のっぴきならない事情に、さすがに石垣の表情が崩れた。



「それで?大丈夫なのか?」



この氷のような男が、他者に対してこのような態度を取ることも珍しい。


大丈夫、という言葉がこんなに似合わない人間もそうはいない。




「とりあえず峠は越えたそうですが、ICUからは出られないので、今日は秋元さんも弟さんも泊り込みになりました。」





坂月の説明に、石垣はそうか、とだけ呟くと考えこむような仕草をして、視線を床に落とした。
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