シンデレラは硝子の靴を
「―同じじゃない…」
鼻を掠めるアールグレイの香りに、沙耶の心はざわざわと五月蝿い。
「あんただって、何も変わんない―」
言いながら、力の限り石垣を押し退けた。
「権力を振りかざす人間なんて皆同じよ!あんたが私に何を望んでいるのかは知らないけど―」
「俺はっ…」
睨みつけた先の石垣が、何かを言いかけるが。
「私はあんたの傍に居るのが苦痛で仕方ないの。」
続けられた沙耶の言葉に、虚を衝かれたようになった。
―三ヶ月か。
言ってしまった後の沙耶の頭は、思いの外すっきりとしていた。
「もう、辞める。」
降り続ける雨に、身体中湿って。
寒さで声は震えて。
けれどしっかりとした足取りで石垣に背を向ける。
落ちてしまった傘もきちんと拾って。
「―逃げんのか。」
間隔を空けて掛けられた声に、沙耶は濡れた靴先を見つめた。
「逃げてなんか、ない。」
しとしとしとしと。
雨の音が響く。
歩き始めた沙耶の耳に、聞こえる音は、もうなかった。