シンデレラは硝子の靴を

「―同じじゃない…」



鼻を掠めるアールグレイの香りに、沙耶の心はざわざわと五月蝿い。




「あんただって、何も変わんない―」



言いながら、力の限り石垣を押し退けた。



「権力を振りかざす人間なんて皆同じよ!あんたが私に何を望んでいるのかは知らないけど―」



「俺はっ…」



睨みつけた先の石垣が、何かを言いかけるが。




「私はあんたの傍に居るのが苦痛で仕方ないの。」




続けられた沙耶の言葉に、虚を衝かれたようになった。



―三ヶ月か。



言ってしまった後の沙耶の頭は、思いの外すっきりとしていた。




「もう、辞める。」




降り続ける雨に、身体中湿って。


寒さで声は震えて。




けれどしっかりとした足取りで石垣に背を向ける。



落ちてしまった傘もきちんと拾って。



「―逃げんのか。」





間隔を空けて掛けられた声に、沙耶は濡れた靴先を見つめた。




「逃げてなんか、ない。」



しとしとしとしと。


雨の音が響く。



歩き始めた沙耶の耳に、聞こえる音は、もうなかった。
< 300 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop