シンデレラは硝子の靴を
朝の道路は空いていて、いつもより半分の時間で会社に着く。


自分の車を運転してきた諒は、ひっそりと静まり返っているフロアに入り、初めて沙耶がここに来た時のことを思い出していた。



―あの日もやっぱり珍しく早く目が覚めたんだよな…



つくづく自分はまだまだ子供なんだな、と思い、溜め息が出る。


沙耶と別れ、アメリカに行く事になって、飛び級でどんどん学業を修了させ、日本に帰国した時。


会いに行こうと思った時には遅かった。


タッチの差で、というのはこのことか。


秋元家から沙耶は居なくなっていた。


無論、どこへ消えたのかはわからない。


着の身着のまま追い出された沙耶達の行方を追うのは難しかった。


その上、まだ沙耶の本名を知らなかった。


何故なら秋元家から疎まれていた彼女の一家は、まさに隠されるようにして暮らしていたからだ。


竹林の持ち主は、秋元家であることはわかっていた。


だが、そこにいた女の子―自分の娘の子供以外―の存在については知らぬ存ぜぬだった。



じゃあ、あの子は?さぁは?


幻だったとでも言うのか。


怒りにも似た絶望が、自分自身を襲う。


更に父の事故が重なり、それどころではなくなった。




―でも。



社長就任のパーティーで、喧嘩を売ってきた女が居た。



なんて女だ、と思った。



諒の立場を分かっていないのか、バイトの女の分際で食って掛かる。


処分なんか造作ない。


直ぐに支配人にあの女が誰なのか問うと。



『秋元沙耶といって、うちの瀧澤の代わりで入っている単発です。』



秋元、沙耶。


その情報は直ぐに、もしかしたらに繋がった。



もしかしたら、『彼女』かもしれない。

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