シンデレラは硝子の靴を


バチっと、沙耶と石垣の視線が交じわった。




それは見紛うことない、モデルの様な顔立ち、スタイルの、最低野郎。



こんなにじっとは見たことがなかったが、悔しいかな、本当に綺麗な顔立ちをしている。



しかし、その瞳は熱そのものを忘れてしまったかのように、温度というものが感じられない。





「え、でも、ミュアンホテルって―」




沙耶は納得いかないように、隣の坂月にちらりと目をやる。




「mur(ミュール)・en(アン)・pierre(ピエール)。フランス語で石垣っていう意味なんです。」




坂月の待ってましたというような笑みに、間違いなく、こいつ策士だ、と確信した。




「もういい。坂月。ここでつらつら説明なんかしやがって。」




怒気を含んだ声が、静かに部屋に響く。



ギッという音がして、石垣は椅子の背もたれにふんぞり返った。




「秋元沙耶」




名前を呼ばれ、沙耶はびくりと身体を震わせる。



扉に入った所で立ち止まっていたため、石垣とは距離があった。



しかし、その視線は鋭く、射抜くように沙耶に注がれている。



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