「幽霊なんて怖くないッ!!」
……でも、そこに薄暮さんは居なかった。
そこに居たのは最初に駆けていったオサキと、次に部屋に入った氷雨くん。
二人は無言のまま、テーブルを見つめていた。
「……居た、んだよね……?」
「わかんないけど、多分居たと思う……」
緩やかに湯気が上がるコーヒーは、今まさに作ったばかりという状態だ。
そしてその隣には、小さな花束と魔法瓶が置いてある。
「……」
「……なぁ双葉ちゃん、コレ……」
「あ……」
花束の下に隠すようにと置いてあったソレは、小さな紙に書かれた私宛の手紙だった。
ソレを見た瞬間に、涙が溢れ出す。
「……もう、ズルいなぁ……。コレだけ残していくなんて、ズルいよ……」
「……だよな。 ほんっと、ズルい」
ソレを隣で見た氷雨くんは、涙を堪えながら笑っているようだった。
「……そのコーヒー飲んだらさ、八峠さんのとこに行こ。 その花束と魔法瓶持って、八峠さんのこと驚かせようぜ」
「……うん……絶対驚くし、喜んでくれると思う」
「よっしゃ、元気出していこうっ」
「……うんっ」
ポンポンと私の頭を叩いた氷雨くんは、ソファーにどっかりと腰を下ろした。
その顔は本当に嬉しそうで、私の手から受け取った手紙をしみじみと眺めている。
そんな彼の横に座りながら、私はテーブルに置かれた あったかいコーヒーを口に運んだ。
「……甘い。 凄く甘い。 とびきり甘い。 でも、凄く美味しい……メチャクチャ美味しいよ」
普段なら絶対に飲まないだろう甘々のコーヒーを飲みながら、私の目からはまた涙が流れ出す。
「また、会えるよね……?」
「うん、会えるって信じてる。 きっとまた来てくれるよ」
「うん」
……薄暮さんは確かにここに居た。
だから、きっとまた会える。
『八峠クンと杏チャンが結婚したら、結婚式に来てくれるんじゃないかい?』
オサキがそう言って笑うと、氷雨くんが『いいこと言うなっ』と目をキラキラと輝かせる。
その後二人は『式場がー』とか『招待客はー』とか、勝手に話を進め始めた。
まるで氷雨くんとオサキが結婚するみたい。
と、そんなことを思いながら のんびりとコーヒーを楽しみ、花束を見つめて微笑んだ。