君と、優しくて愛しい日々を。
「お前が本を読みたがるなんて、珍しいな」
リロザは椅子から立ち上がり、あの頃と変わらない本棚から一冊の分厚い本を取り出す。
すると、彼は何かを思い出したように、ハッと目を見開いた。
「……前にもこうして、お前のために本を出したことがあるな」
俺は少しだけ驚いて、そして目を細める。
いつも通りの声色で、「そうだっけ」なんて言った。
リロザからあのときと同じ本を渡され、わずかについた埃を払う。
ページをめくりながら、もう何年も前になるあの頃のことを、思い出していた。
……なぁ、ジェイド。
俺たちが『はじめて』出会った、奴隷屋のテントでのことを。
お前は、『偶然』だと言うけれど。
俺があのとき、ミラゼと一緒にあの依頼を受けていなかったら、今頃どうなっていたのだろう。