君と、優しくて愛しい日々を。


「やっぱちょっとは、無理するよ」

コウは私を見つめて、ニヤっと笑って。


「約束、したもんね?」






事の発端は、四日前。

いつも通り、部活が終わってふたりで帰って。

他愛のない話をしながら、私の家の前まで来たとき。

私が『バイバイ』と言うと、コウは何故かムッとした顔をして、私の手を掴んだ。

そして、名残惜しそうに私を見つめて、言った。


『…ちょっと、待って』


コウはそっと私の頬に手を添え、顔を傾けてー…………




『………麻佑。なにこの手』


コウの唇が、私のそれに触れる直前。

私は彼の口元を、自分の両手で塞いだのだ。

当然コウは、不満そうに眉を寄せている。

…うう。

だっ…だって、さぁ。

『……いや、なんかこう、心の準備?ができてなかったっていうか…』

『それ、前も聞いたけど?』

『うええ、そうだけどさぁ〜』


そう、そうなのだ。

実は三ヶ月経っても、私達はキスのひとつもできていなかった。

原因は、私。

私がこうやって、直前に拒んでしまうから。



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