イクメンな彼氏
「気付かなくてごめんね……」

窓の外は雪景色。
温泉が売りのうちの旅館の浴室は、毎日私が清掃していた。

人気のない夜中に入浴していると、湯気の向こうに母の姿が見えた。

慌ててバスタオルを手にしたが間に合わず、次の瞬間服のまま湯船に入ってきた母の腕の中にいた。

洋介と付き合っていることは話していたが、暴力は気付かれていなかったはず。

それなのに全てを知っているかのような母の態度に困惑していると、「葉月ちゃんから聞いたの。絶対に助けるから、もう少しだけ耐えて」涙声が聞こえた。

私から離れていったと思っていた葉月は、高校を卒業した後のことを考えて私に関わらないようにしていたのだと、その時に知った。

もしも葉月との仲が続いていると知っていたら、洋介は葉月から辿って私の居場所を知るかもしれない。

そこまで考えて距離を置いてくれた彼女の賢明さと優しさに、私は涙を流した。
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