誤解から始まる恋もある?
「きゃっ!」

持っていたトレーが手から離れて……『あっ!』と思ったときには遅かった。

あってはならないことに、グラスからオレンジ色の液体が飛び、イケメンの肩や背中にかかってしまったのだ。

グラスは床に落ちて、パリーンと割れる音がした。

私は両膝を床についてしまい、痛さで少しの間立てなかった。

どうやらちょっと目を離した隙に、また走りまわりはじめていた子供たちがぶつかってきたようだ。困った子供たちのいるテーブルのほうへ向かうのだから、細心の注意を払わなければいけなかったのに……。

痛みをこらえて立ち上がったときには、慌ててやってきた里沙が男性に何度も謝りながら、汚れてしまった上着をおしぼりで拭いていた。

けれど、おしぼりくらいでは拭きとれるはずがない。上着は絞れそうなくらいびっしょりだった。

ワイシャツにまで被害が及んでいるかもしれない。

「し、失礼いたしました!」

とんでもないことをしでかしてしまい、頭から血の気がサーッと引いていくような感覚になった。

半べそをかきながらも泣かないようにして、米つきバッタのようにペコペコと頭を下げる。

「申し訳ございませんっ!」

イケメンはどんな顔をしているのだろうか。怖くて見ることができない。

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