狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

XXXⅨ―ⅴ 整いゆく準備Ⅴ


ダルドの帰還の知らせを聞いたキュリオは広間の一角、ロイが籠る部屋の扉を叩いた。


「ロイ、そろそろ夕食にしようと思っているんだが…どんな状態かな?」


『あっ!…お待ちくださいキュリオ様っ!!すぐ開けますので!!』


返事とともにバタバタと駆け寄るロイの足音が近づいてくる。



―――ガチャ



「お、お待たせいたしましたキュリオ様。もうそんな時間なんですね…間もなくドレスが完成いたしますので私はもう少しここで作業を続けます」


キュリオが同席する食事など身に余る光栄な事だが、ロイにはやるべきことがある。それは他でもない…自分に任された仕事があるからだ。

そして彼の真面目な性格をよく知るキュリオは大人しく頷いたのだった。


「あぁ、わかった。ダルドも戻ったばかりだからね。今ちょうど湯浴みをしているところなんだ。食事は皆揃ってからはじめようと思う」


「…ありがとうございますキュリオ様…!」


嬉しそうに頭を下げたロイにキュリオは笑みを浮かべると"では、またあとで"と言葉を残し去って行った。


さらにやる気が出たロイは可憐に輝くドレスの細部へと針を通す。
首元を柔らかく包み、揺れるのは純白の鳥の羽だ。そしてその周りを縁取るのは銀の刺繍で…裾が波打つフレアのように広がりを見せている。


―――銀の刺繍に羽…王のみが許される銀の刺繍に羽ともなれば、もはやこれは現王・キュリオそのものを意味している。一見、それは咎められるべき恐れ多いデザインをあえてロイはキュリオに提案してみせたのだった。そして彼女の存在を誰よりも愛している彼は快く承諾し、とても気に入ってくれたのだ―――


キュリオがこのドレスに天使らしさを感じたのも恐らくこの羽と全体的な雰囲気によるものだろう。


「あとはここをこうして…」


ロイ一族が生み出す美しいシルエットと繊細な技術は、紛れもなくこの若い仕立屋(ラプティス)にも受け継がれている。


そして王に寄り添い、彼の想いを汲み取る能力に長けているのも大きな特徴と言えるのだった―――


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