狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その33

学園がその姿をほどんと変えずにいられることから、すでにセシエルかキュリオの結界が発動しているのだとわかる。

やがて黒煙が風に攫われ、煉獄の熱をはらんだ中心に優しい輝きが見える。

そして姿を現した二つの人影。


「…くっ!!…はぁっ…はっ…ぁ……」


血を流しながら膝をつき、苦しそうに肩で息をするクジョウとセンスイ。

彼らの目前で深く突き立てられたクジョウの剣が弱々しい光を放ちながらも二人の存在を守り続けていた。

しかし…同時に打ち込んだはずのセンスイの武器は見るも無残に砕け散っており、クジョウのそれがどれほどに優れたものかを示していた。


―――ピシッ…


「宝珠がっ…」


セシエルの巨大な力を受け、元より傷ついていた宝珠に新たな亀裂が生じる。
よろよろと立ちあがったセンスイが悲しみの色を浮かべ…血にまみれた手を宝珠が嵌め込まれた彼の剣に差し延ばした。


「君は…いや、君たちは随分その剣を信頼しているようだね。私の攻撃に耐えてくれる自信があったのだろう?」


クジョウの剣の後ろに立つ美しいセシエルの顔が、死を告げる死神のように冷たく二人を見下ろしている。


「貴方たちの神剣よりよほど…彼の聖剣は強い…っ…」


憎悪が滾(たぎ)るセンスイの瞳は、彼が頭上から流した血の色に染まりながら…尚も怒りの炎を燃やし続ける。


(…聖剣?)


「……」


「……」


同時に顔を見合わせたキュリオとセシエル。


「…生憎だがそのような情報ももう必要ない。貴様…センスイと言ったな?」


「……」


亀裂の入った宝珠に指を這わせたままキュリオの問いにセンスイは答えない。


「…私のアオイを連れ去ろうとした…あの"センスイ"か…」


「…っ…」


ようやくキュリオの言葉に反応を見せたセンスイの指がわずかに動く。


「…あの時仕留め損ねた獲物はここで始末する」


記憶を取り戻したキュリオは、当時の怒りを呼び覚ますように勢いよく神剣を振り上げた。


「…娘を取られた腹いせか?」


目にもとまらぬ速さで"聖剣"を抜き取ったクジョウがキュリオの喉を目がけてその切っ先を突き立てた。

まさに一触即発の状態だが、深手を負ったクジョウとセンスイの敗北は明らかだった。


< 663 / 871 >

この作品をシェア

pagetop