薫子様、一大事でございます!

「これね、また作りすぎちゃったのよ」


30センチ四方はありそうなタッパーの中には、ぼた餅がずらり。

滝山が喜びそうな差し入れに、私も嬉しくなる。


「いつもありがとうございます」


芙美さんは、こうしてちょくちょく差し入れをしてくれているのだった。


「何言ってるのよ、食べてくれる人がいると思うと、つい張り切っちゃうのよねぇ」


芙美さんが白い歯をニッと見せて笑う。


年の功は50代後半。
旦那様を数年前に亡くした未亡人だ。


成人して独立している息子さんと娘さんがいるらしい。


瓶底メガネから覘くつぶらな瞳は、小鹿のように可愛らしい。

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