薫子様、一大事でございます!
長い髪を小さくお団子にして、いつも違うシュシュをつけるというちょっとしたお洒落さんだ。
このところ、お腹が出てきたのよと言ってはドーンと豪快にわき腹を叩く、底抜けに明るいお人よし。
私がここにいられるのは、この芙美さんのおかげでもある。
築20年は越えていると思われる、鉄筋3階建ての小さなマンション。
部屋の規模は1DKが6部屋、2DKが3部屋だけという、本当に小さなマンションだった。
外壁がはがれていたり、窓の建付けが悪くなって、ところどころに老朽化が進んでいた。
この建物の左右と後ろには数年前から高層マンションが建ち始め、窓を開けても隣の壁しか見えないという景観の悪さ。
かろうじて一方向は道路に面しているものの、狭い道路を挟んだ向かい側にはやっぱり高いビルがそびえ建ち、昼間でも電気が必要なほど薄暗い。
行くところを探して彷徨っていた私と滝山が行き着いたのが、そこだったのだ。