インセカンズ
「どうしたんですか、ヤスさん」

「ああ。煙草切れそうだったから」

安信は言いながら、煙草をジャケットのポケットに仕舞う。

「彼女さんを置いて?」

「部屋でうろうろしてたら飯作るのに邪魔だって言われたからさ。時間つぶしも兼ねて出てきた」

「そんなことして大丈夫なんですか?」

「いんじゃね? 出てくるって言っても何も言わなかったし」

「できた人なんですね」

「そうでもないけどな」

「良いんですか? そんなこと言って。付き合い長くなると、感謝の気持ちとか忘れてしまいがちだって言いますよね」

「そうか? 俺は、その都度ちゃんと口に出す方だけど」

緋衣はカマを掛けてみたが、安信は表情を変えない。以前、同期の飲み会で話していたという、付き合いの長い恋人のことを暗に言ってみたつもりだが、彼はその話を緋衣が知っていることを前提としているようだった。

これまでも好き勝手やってきて、その度に懐の深い彼女に何でも許してもらってきたんですか?そう聞きたくなるのをぐっと堪える。

「それなら、彼女さんも嬉しいでしょうね。でもこんなところで油売ってないで、用は済んだんだから早く帰ってあげてくださいよ」

「そう言うなよ。せっかく会ったんだし、それ飲み終わるまで俺に付き合えよ」

「……じゃあ、少しだけですよ」

せっかく会ったと言っても、ほんの5分程前まで一緒にいたのだ。けれども、これが偶然だったとしても、嬉しいと思っている自分がいる。

「無理すんなよ。アズ、猫舌なんだから」

カップを口元に運ぶ緋衣に、安信は言う。
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