インセカンズ
「さっき大野は、ミチルにプロポーズしてきたの?」

緋衣は、なぜか大野に肩入れしてしまう。自分が来たことで彼のチャンスを奪ってしまったのではないかと思った。

「ううん。アズが来たとき、実はまだ話し始めたばかりだったの。昔の男相手にバカみたいだけど、タケルと会う前はいつも念入りにメイク直すんだ。だから約束の時間より早めに出てきただけ。プライベートでは、タケルと二人きりで会わない事にしてるから、たまに顔を合わせる時くらいキレイでいたいって思っちゃうんだよね。最初はね、そうやって、逃がした魚は大きいぞって感じでやってたんだけど……」

ミチルは、そこまで言うと一旦口を噤む。少し考えるようにして目を伏せた後、徐に話し出す。

「私ね。本当はもうずっと、私の方から言ってあげなきゃいけないって分かってるのに、タケルに言えずにいる事があるんだ」

「うん?」

緋衣は相槌を打つ。

「もういいからって。もう、とっくに許してるって。私からそう言ってあげなくちゃ、きっとタケルは前に進めない。もしかしたら、タケル自身、今も本当に私のことが好きなのか、自分が傷付けたせいで離れていった当時の私の面影を引き摺ったままでいるのか、分からなくなっているのかもしれない。どこが引き際なのかを見失っているとしたら、私がちゃんと応えてあげないといけないって」

ミチルは小さな溜息を吐く。

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