インセカンズ
「アズ、なんでそれ二個持ってんだ?」

安信は、アズが持っているキャラクターグッズを見つけて言う。

「あ! ミチルに渡そうと思って持ってきたのに忘れてた……」

緋衣は、残念そうに項垂れながら、今流行りの擬人化されたご当地キャラクターを見る。

「ちなみにそれ、どっちをミチルにやるつもりだったんだよ?」

「え……と、こっち、かな?」

問いかけに改めてマジマジと見てから、ナースの制服を着ている方を上に揚げる。

「どっちも残念。アズ用のは、こっち」

安信は、緋衣からグッズを取り上げると、代わりにジャケットの内ポケットから客室乗務員の恰好をしたキャラクターを取り出して彼女の手のひらに置いた。

「……なんでこれなんですか?」

緋衣の目には大差ない。服装が変わっただけだ。

「それは、俺が一番気入ったやつだから」

そう言って爽やかに笑う安信に、緋衣の心臓は予期せずどくんと高鳴る。彼は、女性が喜ぶ言葉をよく知っている。今さら、それに騙されたりはしない。そう思うのに、自分の大切なものをあげるみたいに言われると、分かっていても自分だけが特別になったような気がしてしまう。

「いや、でも、貰うのは私なので、私が気に入ったものが欲しいです」

「このジャージのどこがそんなにいいの?」

安信は、緋衣から取り上げたグッズを手持ち無沙汰に揺らしてみせる。

「ヤスさんが選んできたんでしょ。いいじゃないですか。シルバーのジャージでキンキラで、フードまでついてるし」

本当はどちらでも良かった。安信から貰えるのであれば、それが何であれきっと大切にするだろう。でも、それを彼に知られる訳にはいかなかった。そう思うと余計に、可愛げのない天邪鬼な言葉ばかりが口を衝いて出てしまう。

「分かったよ。じゃあ、アズには特別二個な」

緋衣がジャージに拘っていると思ったのか、彼女の手に戻してやる。

「今日はいいのか? いつもだったら、噂になると困るんです! とか言ってたのに」

安信は、視線だけで室内を見渡す。疎らではあるが、人が全くいない訳ではなかった。
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