インセカンズ
有言実行の安信は、あれ以来、緋衣に連絡してくることはなくなった。安信が「できるだろう?」と以前に言った通り、緋衣は何もなかった頃と同じ態度で相変わらず卒なく彼に接している。胸の奥で燻ぶる蟠りなど微塵もないかのように、安信を真っすぐ見つめる自分はここまで可愛げのない女だったのかと呆れてしまうほど、優等生のレッテルは今日も緋衣を守ってくれている。
緋衣は、所用で総務に顔を出した後エレベーターを待っていると、静かに開いた箱の中には同期の山崎が一人で乗っていた。
互いに「お疲れ」と挨拶を交す。二人を乗せたエレベーターはゆっくりと上昇していく。
「これから部署に戻んのか?」
山崎は、ちょうど人一人分のスペースを開けて隣りに立つ緋衣に言う。
「ううん。このままちょっと休憩しようと思ってる。山崎は?」
「俺も煙草吸いに。リフレッシュルームに行くつもりなら、俺が他でいいとこ連れていってやるよ」
「いいとこって?」
勤務して6年になるが、聞いたことがない。
「ん? 行ってからのお楽しみ」
「いいよ、リフレッシュルームで。山崎だけ行ってくれば?」
「そう言うなよ。最近、アズ、安信さんと仲良いんだって? あの人の話聞きたくない?」
思わせぶりな口調の山崎を緋衣はしれっとした目で見る。
「は? ヤスさんは、誰とでも平等に仲良くやってるでしょ。何で、私?」
「おまえら皆好きだろ、安信さんのこと。そう言えば付いてくるかなって」
「何それ? そんなの誘う口実にしなくても、話しがあるなら聞くけど」
「なんでか、同期の女共はあの人の肩ばっか持つよな。俺なんて、完全に敬遠されてんのに」
「それは、山崎がヤスさんに変な態度取るからでしょ。……もしかして、昔何かあった?」
緋衣は、窺うように彼を見る。
「あったといえば、あったのかもな。ま、着いたら聞かせてやるよ」
緋衣が乗り込んだ時、最初から最上階のボタンが押してあった。山崎がどこに連れていこうとしているのかは想像できた。
緋衣は、所用で総務に顔を出した後エレベーターを待っていると、静かに開いた箱の中には同期の山崎が一人で乗っていた。
互いに「お疲れ」と挨拶を交す。二人を乗せたエレベーターはゆっくりと上昇していく。
「これから部署に戻んのか?」
山崎は、ちょうど人一人分のスペースを開けて隣りに立つ緋衣に言う。
「ううん。このままちょっと休憩しようと思ってる。山崎は?」
「俺も煙草吸いに。リフレッシュルームに行くつもりなら、俺が他でいいとこ連れていってやるよ」
「いいとこって?」
勤務して6年になるが、聞いたことがない。
「ん? 行ってからのお楽しみ」
「いいよ、リフレッシュルームで。山崎だけ行ってくれば?」
「そう言うなよ。最近、アズ、安信さんと仲良いんだって? あの人の話聞きたくない?」
思わせぶりな口調の山崎を緋衣はしれっとした目で見る。
「は? ヤスさんは、誰とでも平等に仲良くやってるでしょ。何で、私?」
「おまえら皆好きだろ、安信さんのこと。そう言えば付いてくるかなって」
「何それ? そんなの誘う口実にしなくても、話しがあるなら聞くけど」
「なんでか、同期の女共はあの人の肩ばっか持つよな。俺なんて、完全に敬遠されてんのに」
「それは、山崎がヤスさんに変な態度取るからでしょ。……もしかして、昔何かあった?」
緋衣は、窺うように彼を見る。
「あったといえば、あったのかもな。ま、着いたら聞かせてやるよ」
緋衣が乗り込んだ時、最初から最上階のボタンが押してあった。山崎がどこに連れていこうとしているのかは想像できた。