インセカンズ
エレベーターを下りると、山崎はこっちと言って非常階段を上っていく。

緋衣も後に続いていくと、途中、携帯がメッセージの受信を知らせて震えた。ミチルからで、課長代理が緋衣が担当した案件の書類を探しているというものだった。課代のデスクはいつも書類の山で、過去にも何度か紛失騒ぎを起こしている。緋衣は、数日前に提出済みだが急用の場合は携帯を鳴らしてほしいと返事をする。すると、すぐにミチルから今どこにいるかと質問が来た為、『山崎と屋上で休憩中』と打ち込んでから携帯を仕舞った。

彼の後に続いて外に出れば、南風が弄ぶように緋衣の髪を舞い上がらせる。サイドの髪を抑えながら一歩踏み出すと、眼下には高層ビル群が広がっていた。

「知らなかった。屋上出れたんだ」

日中は気温が上がるとの予報通り、麗らかな陽光でぽかぽかしている。

「ここ穴場なんだよ。ベンチもあるし灰皿も用意されてるんだけど、ほとんど知られてないのか、あまり人がいない」

山崎の言葉通り、時間帯もあるのだろうが、今ここにいるのは彼と緋衣の二人きりだ。

「まぁ、階段がちょっとね。でもいいね、ここ。気持ちいい」

緋衣は手摺の上で腕組をして、気持ち良さそうにセミロングの髪を靡かせる。

山崎はその後ろで煙草に火をつけると、ベンチに座った。

「それで? 話しって何?」

「何もないと誘っちゃいけないのかよ」

「いいけど、山崎ってそういうキャラだった?」

「キャラも何も、同期ってだけで俺のことほとんど知らないだろ」

「それは、お互い様でしょ」

同期の女性社員とは一緒に旅行に出掛けることもあるが、男性社員とは同期会で集まるとき以外でこれといった交流はなかった。

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