インセカンズ
「俺があの人の存在を始めて知ったのは中2の時。親戚の応援でインターハイを見に行ったとき、200mに出てたんだ。あの時の衝撃を何て表現したらいいか……まるで風だったんだよ。一目惚れみたいなもんだった。俺も短距離やってたから、いつか同じ土俵で競い合いたいと大学まで追いかけたのに、俺が入学した頃には怪我で走るのをやめてた。リハビリすればまた走れるようになるとは言われてたらしいけどな。

 自分は何をしてきたのだろうと思ったよ。一緒に走れないと分かったら、一気に陸上への熱も冷めた。これでも俺、インハイ6位入賞してるから周囲からの期待も大きくて色々言われたけど、あの人がいないトラックを走る理由を見つける事はできなかった。ずっと忘れてたのに、同じ会社でしかも同期になって、舞台は変わろうともあの人は俺が憧れたときのままいい男で、だから、なんていうか……」

山崎は、遠くの正面に聳え立つビルをぼんやり眺めていたが、ふと視線を落とし、足元より少し先のコンクリートを見つめる。

「許せない……?」

暫く口を噤んだままの山崎に、緋衣は尋ねる。

「……せっかく同期だっていうのに、俺はまたあの人のライバルになれない。俺のせいで困った顔をするあの人を見たいんだ」

緋衣はようやく合点がいった。山崎のさっきの行動は、緋衣をどうこうするつもりはなく、そもそもが安信に向けられていたものだった。安信を牽制するような普段の態度は、振り向いて欲しいだけの駄々っ子だ。

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