インセカンズ
「っていうか、山崎、本当に何も話したいことなかったの?」

「だから最初に言ったろ」

確かに話があるとは言ってなかったが、こうして誘われることも珍しい為、もしや誰にも言えない相談事でもあるのだろうかと思っていたのだが取り越し苦労だったようだ。本当は、安信の話をするつもりもなかったのだろう。

「もう、先戻るね」

拍子抜けすると同時に、気の緩みから二度もからかわれた事を思い出して、あからさまにぷいと背中を見せてやる。

「そう怒んなよ」

「怒ってない」

「じゃあ、また誘ってもいい?」

「気が向いたらね」

背中に向って話しかけてくる山崎に片手を振って答えると、非常階段を下りていく。

フロアに降り立ってエレベーターを待っていると、開いた箱の中から出てきた予期せぬ人物と目が合って、緋衣は思わずぎくりと身構えてしまう。

「……ヤスさん。どうしてここに?」

「アズこそ。このフロアは会議室しかないだろ。俺はちゃんと鍵借りてきてる」

安信は顔の横で鍵を掲げる。もう片方の手には、PCといくつかのファイルがあった。

彼は屋上に出られることを知っているのだろうか。それを言っても良かったが、山崎の隠れ家のような場所の話をするのもどうかと思い控える。

「私は、休憩を兼ねてビル内の探索に……。そろそろ戻りますね」

閑散としたこの場所で気の利いた言い訳は思い付かず、子供染みたことしか口を出ない。乗客を待って開いたままの扉の中に乗り込もうとすると、安信の声に引き留められた。

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