インセカンズ
「……チャラい」

「あ?」

緋衣の口からふと言葉が付いて出ると、安信はいつもより若干低い声で聞き返す。

「ミチルが言ってたんです。ヤスさんは、実は一途な男だと思うって。でも、チャラすぎです」例え牽制する為だったとしても、同僚相手に見せていい顔とそうじゃない顔はある。

「おー。それ、ミチルが言ったの? あいつ、見る目あんな」

けれども、安信はどこ吹く風で、数あるリキュールの中からウォッカを選ぶと、キッチンカウンターに向かう。

「とりあえず、ウォッカトニックでいいか? 甘ったるいカクテルは苦手なんだろ」

「なんでそれ……」

確かに、いかにも女子が好むような甘いカクテルには触手が動かない。会社の飲み会で頼むのは、ハイボールやサワー系がほとんどだった。

「違うのか?」

「いえ。当たってます。ジンよりはウォッカの方が好きですし。案外見てないようで見てるんですね」

「5年も一緒にやってればな。寧ろ、それで気付かないヤツの方がどうかと思うわ」

カウンター越しに、安信の呆れ顔が見える。

「すみません……。私、ヤスさんがいつも何好んで飲んでいるか知らないかも」

「別に知っててほしいなんて頼んでねーし。ただ、今の一言はちょっと傷付いた」

そこで、カランと軽くステアする音が聞こえてくる。

「そうですよね……。余計でした」

「どうした? 急にしおらしくなったな。ほら」

安信に促されてソファに腰掛けた緋衣の目の前に差し出されたのは、バーで出てくるものとは違い、ライムが入ってないタンブラー。
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